大阪・なんばに料理のプロが通う書店がある。1919年創業の「波屋書房」だ。知る人ぞ知る料理書専門書店で、店の約半分を食関連の本が占めている。

 かつては普通の書店だった。三十数年前、3代目店主の芝本尚明さん(86)が、食専門の出版社・柴田書店に声をかけられて見本市に足を運び、そこで見たこともない料理の専門書に魅了された。

「料理書のフェアをしたい!と思って柴田書店さんに打診したら、本を用意してくれました。店に並べる場所がなくて、当時一番の売れ筋だった風俗本を撤去。フェアの終了後、『このまま料理本でいこう』と決めました」

 以来、少しずつ食や料理の本を増やしていった。客から専門書の注文が入ると2冊取り寄せ、1冊は店に並べた。近くに大型書店が進出したときも、充実した料理本のおかげで客が離れることはなかった。

「お客さんに支えられてここまできた。コロナで飲食店が大変な思いをしているけど、時間ができた分、『本を買って勉強する』という人もいます。うちもいい本をそろえて支えたい」(芝本さん)

 店の地下には倉庫があり、出版社にも在庫がないような本も保管されているという。

「品切れになって注文してもすぐ届きません。だから、冊数が減ってきたら多めに仕入れるようにしているうちに、在庫をいっぱい抱えることになりました(笑)。うちは店の広さが限られているので、『すぐできる』『安くできる』といった家庭向けの本は置かず、食や料理の専門家が書いたものだけを置くようにしています。お客さんに『この本屋楽しい!』と言ってもらえると、こちらもうれしくなります」(同)

 そんな波屋書房で、おすすめの専門書を3冊挙げてもらった。

「『秘傳 鱧(はも)料理 百菜』は一度絶版になったのですが今年復刊。鱧についてあらゆることを網羅しています。『La Becasse』は、フレンチレストラン『ラ・ベカス』オーナーシェフ・渋谷圭紀さんの料理への思いや世界観が詰まった一冊。ご本人がこの本を納品しにきてくださるんです。『八十八種 魚を使いつくす』は、浪速割烹(かっぽう)『喜川』の創業店主・上野修三さんの本。食材としての魚に思い入れがあり、魚といえばこの本です」(同)

(ライター・吉川明子)

※週刊朝日  2021年12月10日号より抜粋