岸田首相が打ち出した「新しい資本主義」。格差是正と公平な分配というスローガンは聞こえはいいが、なぜか株主や投資家を「目の敵(?)」にした、よくわからない政策ばかり打ち出される。30代・会社員、理論派投資家の橘ハルさんがその矛盾を解説する。

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 岸田首相が格差是正のために打ち出したのが「金融所得課税強化」です。具体的には、現在20%の税率を「一律」で引き上げる案が出されていました。

 一律で引き上げると低所得者層の税金も増えてしまうため、格差は是正されません。「貯蓄から投資へ」という時代の流れにも逆行しています。格差是正を目的とするなら「一律」ではなく、たとえば一定額以上(たとえば1億円以上など)の金融所得への増税と「少額の金融所得に対する減税」や「非課税枠の拡大」もセットで行うべきでしょう。

■「無駄遣い」の強制

「会社の利益を株主が持っていってしまうため、成長への投資にお金が回っていない」という考えの下、株主還元策の一つ「自社株買いの制限」も検討しているようです。

 これまで企業は「成長のための投資をしない場合に」自社株買いや配当の形で株主に利益を還元してきました。自社株買いを制限されると、成長のための投資が必要ないのに無理やり投資をする企業も出てくると考えられます。

 いわば強制的な無駄遣いです。無理やり企業が投資すれば本当に無駄に終わる可能性も高く、むしろ成長やイノベーション(革新)は起こりにくくなるでしょう。

「長期的な企業の成長を阻害している」という理由で「四半期開示の見直し」も議題に上がっています。

 米国では自社株買いも制限されておらず、四半期開示も行われていますが、ご存じの通りちゃんと成長し、賃金も上がっています。このことからも、自社株買いの制限や四半期開示の見直しに関する政策は全くの無意味であることがわかるでしょう。

 そして「賃上げ」。岸田首相は日本の賃金が上がらない原因を「株主」に押しつけたいようです。賃上げを強制することで一時的に給料が上がったとしても、生産性の向上が伴わないと、企業にとっては余計な負担となります。海外企業などとの競争で負けてしまうかもしれません。

 競争に負けることで本業の利益は減り、結局は社員の給料を再び下げざるをえないという残念な結果になることが予想されます。

 生産性が向上していないのに、強制的に株主の取り分を減らして社員の給料をいくばくか上げたところで、根本的な解決にはならないのではないでしょうか。

 本質的な原因の理解と、それを解決するために本当に必要な政策の実行を望みます。

※本記事は2022年4月に本人取材のうえ編集されたものです。同年5月、岸田首相がロンドンで行った「資本主義のバージョンアップ」に関する演説は、取材時点では判明していません。

(構成/綾小路麗香)

※『AERA Money 2022夏号』から抜粋