「いじり」で場が盛り上がってもいじられた側は傷ついていることが少なくない。「どこ見てんのよ!」で人気を博したタレントの青木さやかさんと、精神科医の和田秀樹さんが語り合った。AERA 2022年6月13日号は「いじり」特集。

*  *  *

──青木さんは「どこ見てんのよ!」の「キレキャラ」でブレークしました。でも、お笑い芸人として、いじられて嫌だと思うことがあったそうですね。

青木:私がテレビによく出ていた20年近く前、今とは時代が違って「容姿いじり」はベーシックだったと思います。(30代以上、未婚、子なしの女性を位置づけた)「負け犬」というブームがあって、今からすると私もすごく若かったんですけれど、「おばさん」と言われるようないじり方をされました。

 あとは見た目のこと。私は女性アナウンサーになりたかったけど、なれなかったから、何かと女性アナとビジュアルを比べられることがありました。

和田:青木さんはどちらかと言うと美人系芸人だったのでは?

青木:そうでしょうか(笑)。私に自信がないからか、自己肯定感の低さからなのかわからないですけれども、何を言われても傷ついて。でも、先輩たちは愛情を持っていじってくれました。私をおいしくしようとしてくれているのはよくわかります。私は傷つきながら「ありがとうございました」って言う状況でした。

和田:そうだったんですね。

青木:いじってくださった方に、本当はもう嫌だとか、やめてほしいなと思いながら。「やめてくださいよ」って言いますと、それがまた笑いになっていきましたね。本気で嫌だと言ってしまって、先輩方に、青木は本当に扱いづらいと思われるのは嫌でしたから。

■客の笑いに傷ついた

──お笑いライブの舞台で、お客さんから笑われたときに傷つくこともあったそうですね。

青木:例えば容姿をいじられたときにお客さんが笑うということは、お客さんがいじりに共感したということですよね。それに対して傷つくことが多かったです。笑いって共感なので。多くの人が私のビジュアルをそう思っているんだとか、私の発言をこう思っているんだとかっていうことを、笑いが起きることで気づかされるということがありました。

和田:元々はお笑い志望じゃなかったんですよね。

青木:そうなんです。だけれども自分から入っていったのだから、つらくてもやらなきゃみたいにも思っていましたね。

和田:僕は関西(大阪)出身だから、「吉本(興業)に入って笑われたい」っていうのが関西人にとっての憧れでした。

青木:私は全く憧れていませんでしたね(笑)。

和田:笑われたくてお笑いの世界に入る人と、そんなのは関係なしに芸人が憧れの職業だと思って入った人では、だいぶ違うのかなと思います。

青木:むしろ(いじられることを)求めている方もいるのでは。私自身もお笑いの世界で誰かをいじることはありました。もちろん誰も傷つかないように言ったつもりだけど、相手を泣かせてしまったこともあるし、謝りに行ったこともあります。「こんなことで傷つくの」と思ったこともあるけれど、その人の感じ方によるかもしれない。後で後悔しました。

和田:そうですね。いかなる理由で入ろうが、いかなるパーソナリティーであろうが、いざやってみたらきついと感じることはあると思います。出身はどちらですか?

青木:愛知です。

和田:僕は関西出身だから、いじるのが親愛でした。

青木:名古屋はそんなことないと思います。笑いの感覚としては、どちらかというと東京寄りかもしれないですね。

和田:以前、タレントの清水圭さんと関西の番組で共演していたことがありました。その帰りに清水さんが言っていたんだけど、学生食堂か何かで、清水さんが席を外してトイレに行っている間に、友だちからどんぶり一杯分ぐらいの七味をうどんにドバーッとかけられたそうです。清水さんは「ウケるチャンスや」と思って、ズルズルとすすって「うま」と言った。それがめちゃくちゃウケたとか。

青木:そうなんですか。でも、その話って人によっては信じられない出来事ですよね。

和田:僕自身は(兵庫の)灘中学・高校時代に壮絶ないじめに遭ったんです。

青木:そうだったんですか。

和田:教室のごみ箱に1時間も閉じ込められるとか。一番ひどいのは柔道着でぐるぐる巻かれて、3階からつるされたこともありました。

■小学校からいじめに

青木:その時はどうお感じになっていたんですか。

和田:やっぱり嫌でした。さらに嫌なのは、小学校を6回転校しているんですけど、6年間ずっといじめられていたんです。

青木:転校は自分の意思だったんですか。

和田:親の仕事で。結局は小学生だから、いじめといっても、からかいや冷やかし程度だったんです。そのとき自分はすごく勉強ができたから、「こいつらはひがんでるんや」って思えたんですね。

青木:すごい。自己肯定感が高いんでしょうかね。

和田:自己肯定感というか、母親が「お前は賢いからいじめられんねん」みたいなことを言うような人だったからよかったんです。だけど、灘に入ってからは勉強しなくなって。最初は成績が上から5番で副級長になって、みんなからちやほやされたけど、成績が下がると目に見えてばかにされる対象になるわけです。

青木:あー。

和田:自己肯定感が低いときにいじめられるわけだから、きついですよ。

■傷つくものは傷つく

──誰にどんな状況で言われるかによって、いじられたときに抱く感情が違うようですね。

青木:お笑いの世界では、嫌いな人をいじることがあまりないと思います。ただ、きつかったのは、視聴者の方。街に出るとテレビと同じように、と言っても全然違うんですけれど、お笑いの技術も愛情もなく私はいじられました。私が黙っていると、「何にも言わないんだ」みたいな感じになるんですよね。それをどこまで我慢するか、すごくストレスになりました。当時、外に出なくなりましたね。

和田:そうだったのですね。

青木:いじりといじめの境界線はどこにあるのでしょうか。

和田:そこは難しいです。僕の印象ですが、いじるとかいじめるとかいうのは、いじる・いじめる主体側がどう思っているかが大きいと思います。

青木:受け手側ではなくて?

和田:例えば、お笑い芸人が青木さんをいじるときに、いじったほうが青木さんはウケるだろうと思っているのであって、いじめていると思ってないでしょう。

青木:そうですね。

和田:いじめているのに「いじっただけ」と言い逃れする人もいるけれど、いじめている側の多くは「こいつをいじめてやる」という気持ちがあると僕はみています。つまり、ウケを狙っているわけじゃなくて、いじめて快感を得ていたり、やっつけた気分になっていたりする。いじる・いじめる側にとって、「いじる」と「いじめる」では意識が違うんです。

青木:なるほどです。

和田:ただ、受け手は違います。相手に悪意があろうがなかろうが、傷つくものは傷つきます。

青木:そう思います。

和田:話はそれますが、(ジャーナリストの)伊藤詩織さんが性的暴行を訴えた事件も、いろいろ言う人はいるけど、伊藤さんにとって不本意であれば海外の基準であればレイプです。本人が嫌がっているなら、だめだというのが基本的な認識です。ハラスメントに関しては、ようやく受け手がハラスメントだと思ったらハラスメントだという流れになってきた。それと同じで、いじりも受け手がどう感じているかが大事だと思います。

(構成/編集部・井上有紀子)

※AERA 2022年6月13日号より抜粋