西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「『80歳の壁』」。

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【年齢】ポイント

(1)『80歳の壁』が話題。私にとって「80歳の壁」とは

(2)80歳代に入ると、やっと「人生も後半」という気に

(3)『80歳の壁』はこのコラムと相通じるところがある

『80歳の壁』(和田秀樹著、幻冬舎新書)という本が話題になっているようです。

 著者の和田さんはまだ62歳なのですが、高齢者を専門にした精神科医で、以前に取り上げたことがある『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)という本も書いています。どちらの本もタイトルが絶妙ですね。団塊の世代を中心とする70歳代の人たちが読みたくなるつくりになっています。

 うーん、ところで私は86歳になりますが、80歳の壁はあったのかな。年齢というのは、日々、重ねていくものなので、ある歳から劇的に変化するといったことはありません。でも、不思議なもので、60歳代、70歳代、80歳代と人は自分の人生を10歳区切りで見がちですね。

 そういう区切りで見ていくと、私の実感としては、60歳代と70歳代はあまり違いがないのです。確かに体力は徐々に落ちていくのですが、まだまだ大丈夫といった感じです。ところが80歳代に入ると、やっと「人生も後半だな」という気になってきます。それだけ、死を身近に感じるようになるということでしょう。それは決して悪いことではありません。死を受け入れる気持ちが強くなるわけですから。

 和田さんが『80歳の壁』で語っているのは、「無事に80歳になったら、老いを受け入れ、できることを大事にしよう」ということに尽きるようです。これは、私がこのコラムで主張してきた「老化と死に抵抗するのではなく、受け入れることで、毎日をときめかせて、攻めの養生をしていこう」というのと相通じるところがあります。

 和田さんが書いている「食事は我慢しない。食べたいものは食べる」と「エロティックは否定しない。いくつになっても刺激を求めていい」という考えは、まったくもって同感です。

 私の食養生は「好きなものを少し食べる」というものです。好きなものは、からだが、そしていのちが、要求しているのですから、大いに食べていいのです。

 また、最近私は「86歳になっても、わが女好きは一向におとろえない」と公言するようにしています。女性と一緒にいるだけでうれしいし、ハグも所かまわず、やりまくっています。それにより私の男性ホルモンは健在です。男性だけでなく、女性も性を大いに謳歌しましょう。

「お酒は飲んでいい。でもやはりほどほどに」というのは、ちょっとだけ違います。和田さんは「晩酌を楽しむのが賢明」というのですが、私は休日なら朝からビールを飲みます。80歳を超えたら、「ほどほどに」なんて考えなくてもいいのです。このほか、和田さんが勧める散歩が私は嫌いだったり、いろいろ違いはあるのですが、同感するところが多い本でした。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

※週刊朝日  2022年6月17日号