東大の推薦入試(現・学校推薦型選抜)には、日本全国から選りすぐりの優秀な高校生が集う。学力や英語力だけでなく、研究分野における国内外のコンクールやコンテストでの入賞、論文掲載、課外活動などの実績も評価される。理学部のキリくん(仮名)は予備校などに通わず、自宅学習にほとんどお金をかけず、この入試で東大に入学した。一人息子のキリくんを支えてきたのが、『お金・学歴・海外経験 3ナイ主婦が息子を小6で英検1級に合格させた話』(朝日新聞出版)の著者である、母親のタエさんだ。タエさんは「とにかく賢い子に育てたい」と幼少期から英語育児をスタートし、現在は親子教室「ベビーパーク」英語育児部門の統括責任者を務める。そんなタエさんに、自らが幼児期の子育てで大切にしてきたことについて、教えてもらった。

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 タエさんは、もともとは大阪に住むごく平凡な専業主婦だった。自身は高卒で、特別お金があるわけでも、海外経験があるわけでもなかったが、独自の英語子育てをつづったブログが当時話題となり、冒頭に紹介した著書の出版へとつながった。

 キリくんは5歳で英検5級、小6で英検1級に合格。小2で算数の「先取り学習」を始め、中3で高校の数IIIの範囲までを終わらせた。その後、高3のときに国際物理オリンピックで銀メダルを獲得。塾通いや通信教育なしで東大の推薦入試に合格し、大学入学当時の英語力はTOEFL iBT109点、TOEIC985点と高得点だった。

 このように並べてみると、やはり、幼少期からの英語や算数の勉強が大事なのだと思われるかもしれない。もちろん、キリくんの資質もあっただろう。でも、「これらはあくまでも手段や結果にすぎない」とタエさんは言う。

「学ぶ力の土台となる部分や親子関係をしっかり築いてきたからこそ、子どもの持っている力を存分に伸ばせたのではないか、と考えています」

 では具体的にどのようなことを実践してきたのか。

(1)遊びこそ最大の学び 友達と遊ぶことを最優先に

 幼児期は「生活すべてが学びで、ドリルなどの勉強は二の次! とにかくいっぱい遊べる機会をつくり、脳に刺激を与えることが大切」だとタエさんは言う。

「息子は一人っ子なので、子ども同士で遊ぶ経験が少なくなりがち。同年代のお友達と気軽に遊べるよう、幼稚園のない日は朝10時以降ならいつでも家に呼んでいいと息子には伝えていました」

 たっぷり遊べるように、アイロンビーズや粘土、折り紙などは常にストックしておいた。その結果、キリくんは「ぼくの家に来ていいよ」と手当たり次第に友達を誘うようになり、自宅は周りから「児童館」と呼ばれるほどに。子どもがたくさん遊べる機会を積極的につくり出していた。

(2)ストレスをなくし、集中して遊べる環境をつくる

 タエさんが遊ぶ機会づくりと同様に大事にしていたのが「遊びにどれだけ集中できるかどうか」。退屈してボーッと過ごすよりも、集中して遊んでいるほうが脳は働いているはず。遊ぶときにおもちゃが見つからない、取り出せないなどのストレスを受けて、遊ぶことをやめてしまっては意味がない。そう考えたタエさんは、集中して遊べる環境づくりを徹底した。

 当時住んでいた2LDKの自宅の一室を、家具の置かれていない広々とした遊びスペース(兼寝室)に改造。押し入れの戸を外して、ロールカーテンを取り付け、下の段すべてをおもちゃの収納場所に。カーテンを半分上げれば、おもちゃは取り出し放題。好きなおもちゃを選んですぐに遊べる状態にしていた。

(3)好きなことにはとことん付き合う

 3歳でキリくんが昆虫好きになったときは、分厚い図鑑やポケット図鑑、網と虫カゴなどを買い与え、毎日のように虫を捕りに親子一緒に出かけては図鑑で調べていた。昆虫が展示されている博物館にも何度も出かけ、図鑑に載っていない虫を持っていき、名前を教えてもらったことも。

 その後も戦隊ヒーローものや爬虫類などブームが訪れるたびに、とことん付き合っていたという。

「今となっては昆虫の名前をまったく覚えていませんが、当時はかなりの種類を暗記していました。その後もいろんなものを好きになりましたが、あのときの熱中する力はすさまじかったです。今振り返ると、これらの経験が、後の勉強への集中力や探究する力につながっていたと思います」

(4)日常生活の中で数を意識した言葉かけをする

「算数のできる、数に強い子に育てたい」と思っていたタエさんは、いきなり計算ドリルなどは使わずに日常の生活のなかで数や大きさを意識させていった。        

 たとえば、おやつを食べるときに「3つ食べようか。1、2、3、どうぞ」。年齢が上がってくると、声かけも難易度アップ。「友達みんなに2つずつ渡してね。いくついるかな? 3人いるから、1、2……6個だね」といったように、常に数字を意識させてきた。

「普段の会話に交ぜるだけ。特別な用意はいらないし、お金もかからないので、すぐできますよ」

 ちなみに、勉強としてドリルを始めたのは、幼稚園の年長になってから。キリくんの好きな工作ドリルにまずは誘い、それが終わった後にひらがな1文字を書いていた程度で、算数のドリルも少しはやっていたが、学習ドリルは小2になってから本格的に始めたという。

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 幼児期の芽をどう伸ばすかは、親の声かけや周囲の環境によるところが大きい。遊びのなかで好奇心や熱中する力、集中力を育むことが将来の学業へとつながる部分もあるし、親子関係にも影響するだろう。

「子どものタイプもあるとは思いますが、うちの場合は小さいときから必要以上に叱らないようにして、好きなことを親子一緒に楽しんでほめてきました。だから、息子の自己肯定感は世界レベル。大きくなった今でも、他人より劣る部分があっても『ぼくにはこんな良いところがある』と気にしていません。自分が愛されている自信があり、かけがえのない存在だと考えているからでしょう。だから周囲の目を気にしすぎることなく、困難があってもやりたいことに向かって突き進んでいるのだと思います」

(取材・文/小林佳世)