社会で働き始めて、本当に身につけるべきスキルがわかってくる人も多いだろう。もっと仕事の質を高めたい、キャリアアップしたいという社会人にお勧めなのがリカレント教育だ。国もリカレント教育の支援を行っており、学費を補助するプログラムもある。好評発売中のアエラムック『大学院・通信制大学2023』では、リカレント教育の現状を取材した。

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 仕事のスキルアップのために、専門的なカリキュラムを学びたいという社会人が増えている。大学院はハードルが高いという人は、大学が「リカレント教育」として提供している社会人向けの講座を検討してはどうだろうか。進路指導支援を行う株式会社さんぽう会長の渡邉洋一さんは社会人の学び直しの背景を次のように話す。

「IT化や技術革新で社会は急激に変化しています。この変化に対し、新しい技術や高度なスキル、資格を身につけてキャリアアップをはかろうという社会人の意識が高まっています」

 渡邉さんによるとキャリアアップ、転職、資格取得、女性のスキルアップ、シニアの再就職など、さまざまな理由で学び直しをする人が増えているという。非正規社員が正社員をめざして受講するケースもある。正社員を希望する非正規社員は100万人いるとされており、政府も支援を行っている。学費の補助や勤務時間の調整などで、社員の学びを支援する企業もある。

「企業は職場内研修(OJT)を行っていましたが、それでは追いつかないほど社会の変化は激しく、専門的な学びが必要になっています」(渡邉さん)

 リカレント教育の講座の種類は多岐にわたりMBA(経営学)、福祉・介護、地域創生、社会活動、さらにはコロナの影響で医療系の需要も高まっている。

 注目すべきは情報系のプログラムだ。

「日本社会をSociety5.0(注:文末参照)へと転換していく上で、人材の不足が問題になっている。DX(デジタルトランスフォーメーション)分野では、日本の人材は米国の1割しかいないと言われています。日本が世界と伍するためには国家戦略として情報系に長けた人材の育成が急務です」(同)

 文部科学省、厚生労働省、経済産業省の三つの省庁が連携して制度の策定、補助金や助成金の交付などを進めている。2007年には学校教育法が改正され「履修証明制度」が創設された。一定のプログラムを修了した社会人に対して、履修証明書を交付。ジョブ・カード(職業能力証明シート)に記載でき、再就職や転職のときにアピールできる。さらに専門的な講座として「職業実践力育成プログラム(BP)」「キャリア形成促進プログラム」が創設され、それぞれのプログラムに応じた履修証明書が交付されている。当初の条件では講座総時間数を120時間以上と設定していたが、社会人の学びやすさを考慮して、19年から60時間以上となった。

■予算や情報の提供で文科省も積極的に支援

 文部科学省でリカレント教育を担当する川島志月さんは、こう話す。

「日本の人口は減少していくわけですから、個人の労働生産性を上げることが必須。そのため文科省としても、リカレント教育を重要視しています」

 22年度にはDXなどの成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育の推進事業を展開。15.5億円の補正予算をもとに、大学や専門学校などを対象として、DXを始め、グリーン、医療・介護、地方創生、女性活躍、起業、イノベーションなどのプログラムの開発と実施を支援する。

 本事業で開発したプログラムの募集状況や内容は、文科省ホームページや社会人の学びのポータルサイト「マナパス」で公開予定だ。

「昨年度も就職・転職に向けたリカレント教育事業を実施しており、修了生から話を聞くと講座の内容だけでなく受講生同士がつながり、仕事の幅が広がったなど効果が高いことがわかりました。これからも支援を強めていきたいと考えています」(川島さん)

[図1]を見ると、学び直しの目的が「業務に関わる知識・スキル」を得るとする人の割合はそれぞれ約37〜56%と高く、また約11〜17%が「学位」「履修修了証」「資格」を得ることを望んでいる。

 BP受講生の年齢([図2])は30〜50代が全体の約87%を占め、仕事をリタイアした世代の「生涯学習」の位置づけではなく、現役世代の社会人が圧倒的に多いことがわかる。

 自身のキャリアアップはもちろん、同じ目的を持つ受講生とともに学び、社外の人たちとの新しいつながりも期待できる「リカレント教育」をぜひ活用してみよう。

(取材・文 柿崎明子)

注:狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)

※アエラムック『大学院・通信制大学2023』より