鉄道に魅せられるきっかけは、人それぞれだ。歌手・石川さゆりさんの場合は、子どものころに見たSLだった。AERA 2022年8月8日号で、石川さんが思いを語ってくれた。

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 私、昔からSL(蒸気機関車)が大好きなんです。

 子どものころ熊本に住んでいて、鹿児島線を走るSLを見ながら育ちました。小学校の時、白川という熊本を流れる川にかかる鉄橋があって、その近くの土手に駆け上がりSLが来るのを友だちと待ってました。ガタンガタンという音が聞こえ、「ボォー」と汽笛を鳴らしてSLが目の前を通過するのをワクワクしながら見ていたんです。

 坂道を一生懸命に上ったり、駅に着くと「シュー!」と蒸気を吐き出したり。そうした人間味があるところが大好きです。

 夜行列車にも思い出はたくさんあります。

 10歳の時に家族と上京しましたが、夜行列車の「みずほ」で来ました。遠かったです。明け方、兵庫県の明石あたりで、母が「ここで日本の時間を合わせるんだよ」って教えてくれたのを覚えています。

 夜行列車には、人々の悲喜こもごもがありますよね。

 新幹線が走る前は、仙台より北のコンサートツアーの移動は夜行列車でした。ある時、東北のどこの駅か忘れましたが、コンサートが終わり真っ暗なホームで、バンド仲間やスタッフたちと帰りの夜行列車を待っていたんです。同じホームに新婚さんがいて、新婚旅行に出掛けるところでした。すると、バンド仲間が「2人のためにみんなで演奏しよう」と言って演奏を始めたんです。暗いホームは音楽に包まれ、とてもすてきな光景でした。

 19歳の時に「津軽海峡・冬景色」がヒットし、歌詞にある通り「上野発の夜行列車」が人気となりました。私もよく乗りました。熊本からの夜行列車は未知への出発という感覚でしたが、上駅発の夜行列車はそれとはまた違った感情が湧いてきました。

 大人になってからは、上野と札幌をつないで2015年に引退した夜行寝台列車の「北斗星」にも乗りました。日が沈み明け方になって夜が明けていったり、街が雪景色に変わっていったり……。時間の経過とともに流れる風景を、車窓から楽しむのはなんて贅沢(ぜいたく)なんだと思います。

 私は、鉄道のジャンルでいうと「小鉄(こてつ)」です。鉄道は好きですが、鉄道マニアの方に「大好き」というのはおこがましいので。「こてっちゃん」です(笑)。

 今は、時間に追われない列車の旅をしてみたいですね。どうしても、何時までどこに着いてどこに宿泊してと、スケジュールが細かく決められています。そうじゃない、どこを目指すのでもなくどこに着くのかもわからない、そういう列車の旅をしたいです。

(構成/編集部・野村昌二)

※AERA 2022年8月8日号