お笑い芸人として活躍する安藤なつさんは、長く介護の仕事にも携わり、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格も持っています。厚生労働省の補助事業「GO!GO!KAI−GOプロジェクト」の副団長を務め、共著で介護についての書籍も発刊しています。週刊朝日ムック『高齢者ホーム2023』では、「もっと介護の知識を増やしたい」という安藤さんが、介護関連のコンサルティングに従事する高山善文さんに、介護業界の現状や未来について話を聞きました。その中で安藤さんは、最近、初任者研修の上位資格である「実務者研修」の資格を取得したと語りました。

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安藤 高山さんが介護業界に入るきっかけは何だったんですか?

高山 僕は全寮制の高校出身なんですが、その高校の隣に障がい者施設があったんです。職員の方たちが利用者さんと散歩している姿を見て興味が出て、休日に障がい者のボランティアをするようになったんです。

安藤 若いときから介護に携わるのはいいですよね。私も最初に介護とかかわったのは、中学生のときです。伯父が運営していた介護施設にボランティアに行くことから始めて。高校生になってアルバイトに切り替えて、20歳のときに「ヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)」の資格をとりました。介護というと、「きつい」「大変」というイメージを持たれがちですけれど、私は介護を大変だと思ったことがないんですよね。「今日は利用者さんたちと何して遊ぼうかな」みたいな感覚でした。

高山 わかります。僕もそうですね。利用者の方に喜んでもらえるのがうれしかったんですよね。自分が人の役に立てているんだと実感できて。

安藤 年を重ねると自分のルールやイメージがかたまってきてしまうし、体力的にも介護の仕事へのハードルが上がりますよね。

■中学の技術・家庭科に介護の授業が導入

高山 2017年の中学校の学習指導要領改訂で、技術・家庭科に「介護」が加わったんです。

安藤 いい傾向ですね。私も「GO!GO!KAI‐GO応援団」という事業で、福祉や介護の仕事について発信しているのですが、この間中学生と一緒に介護の授業を受けました。みんなしっかり考えていて、未来は明るいなと思いました。

高山 各都道府県でも介護の魅力を発信する取り組みをしていますね。身近に介護が必要な人がいないと、介護のイメージもわきにくいですよね。

安藤 地域のつながりが薄くなっていますしね。

高山 いろいろな団体が小・中学生の将来なりたい職業を調査していますが、介護職はランキングに入ってこないですよね。医師や看護師は人気ですが。

安藤 テレビドラマもドクターやナース系のジャンルは多いけれど、ヘルパー系は少ないですよね。

高山 安藤さんのような方に情報を発信してもらって、若い世代にも介護職を身近なものに感じてもらえるといいですね。

安藤 はい。介護職のハードルを下げられるといいなと思って活動しています。現場では、人手不足の問題もありますよね。介護の質を高めつつ、人手も増やしていくには、どうすればいいんでしょうか。

高山 介護業界に限らず人手不足なので、難しい問題ですね。僕は外国人介護士が一縷の光だと思っています。

安藤 確かにやさしく接してくださるし、国に仕送りをするという目標もあるから、志が高いですよね。

高山 僕は外国人介護士を介護施設に導入するコンサルティングもしているのですが、彼ら彼女らは高齢者に寄り添って丁寧に話してくれますよね。

安藤 やはり介護は志のある人やこの仕事を楽しいと思える人にやってもらいたいなと思います。

■膀胱内の尿の量がわかる機器が話題に

最近は介護ロボットが活用されているといった話も耳にします。

高山 国も介護ロボットの普及促進を図っていて、さまざまな製品が開発されています。入浴や排せつ、歩行などを支援するロボットがありますが、最近話題なのが排泄予測支援機器です。福祉用具として介護保険を利用して購入できます。

安藤 どういう用具ですか?

高山 センサーをへその下あたりに装着すると、膀胱内の尿のたまり具合をモニタリングできるんです。

安藤 えっ、すごい!

高山 例えば老人ホームでは食後にトイレに誘導しますけれど、拒否される方がいますよね。

安藤 あっ、この機器で膀胱内の尿の量がわかるから「いや、たまってるじゃん」って言えるんですね。

高山 そうです。スムーズにトイレに誘導できますし、ある程度記録がとれると排せつパターンがわかるので、夜間のおむつ交換が減るんです。

安藤 すごいですね。現場で働いていたときもおむつのむれや不快感を防ぐためにいろいろ工夫していましたけれど、これがあればトイレの失敗が減って、おむつかぶれも防げますよね。私も自分で試してみたいです。

高山 実際に自分で試さないとわからないですよね。

安藤 おむつは試しました。おむつに排せつするのって難しいんですよ。

■介護職も一部の医療的ケアが可能に

高山 介護の未来については、認知症ケアも重要だと思っているんです。認知症は今のところ薬では治せないとされていますが、生活の中で進行を緩やかにすることはできます。その力が介護にはあると思うんです。

安藤 認知症の人がみている世界を受け入れ、寄り添うには技術が必要だと思うんです。そこを勉強したいという人が増えるといいですよね。

高山 国も認知症サポーター(※1)の養成を推進するなどして、少しずつ増えてはいます。

安藤 私は20年くらい介護の現場に携わったので、技術は身についたと思いますが、知識は勉強しないと身につかないじゃないですか。知識を増やしたいなと思って、最近「実務者研修」(※2)の資格をとったんです。特に喀痰(かくたん)吸引や経鼻経管栄養など医療的ケアの手技がめちゃくちゃ大変でした。

高山 以前は介護職には医療的ケアは認められていなかったんですが、今は一部できるようになったんです。

安藤 家族の負担を減らすためにも、介護職の人ができることが増えるのはいいことですよね。昔から親の面倒は子どもがみる、みたいな風潮がありましたけれど、そんな必要は全くないですよね。

高山 親を老人ホームに入居させることにうしろめたさを感じる人がいますけれど、自分の生活を犠牲にしてまで面倒をみることはないと思います。特に認知症は大変ですから。

安藤 自分のことを忘れていく親の姿を見るのは、子どもとしてはつらいですよね。そのストレスは、怒りに変わりますから。認知症のことを理解している施設のスタッフが間に入ると、家族はすごく救われると思うんです。

■作業を細分化して介護の質を高める

安藤 高山さんにとって、理想の高齢者ホームはどんなイメージですか?

高山 介護の仕事が好きで楽しそうに働いている人がたくさんいるホームですね。

安藤 本当にそうですよね。いやいや介護されても、ストレスですし、それをがまんするのはつらいですよね。楽しく働いてもらうためには、環境が大事だと思います。

高山 介護職は事務仕事や掃除などの作業もあり、本来の介護の仕事に集中できないという現状がありました。最近は集中できるように、作業を分担する流れになってきています。

安藤 作業を細分化して介護の質を上げる取り組みですね。

高山 安藤さんは自分が入居するなら、どんなホームがいいですか?

安藤 自由なところですかね。音楽が好きなので、「Jポップ棟」「レゲエ棟」「メタル棟」みたいにジャンルごとの棟があると楽しいかも(笑)。若いときにはやった音楽を聴くのって脳への刺激になりますしね。私の世代だと安室(奈美恵)ちゃんがホームで流れているかな。

高山 世代で変わりますよね。僕がホームに入ったら、みんなでサザンオールスターズを歌っているかも(笑)。ホームの雰囲気は、合う合わないがありますよね。

安藤 ホームを選ぶときは見学して、現場のスタッフ2、3人と話してみるといいですよね。

高山 入居したあとでも合わなければ変えられるということをみなさんに知ってほしいですね。ぜひ納得のいくホーム選びをしてほしいです。

(文/中寺暁子)

※1 認知症サポーター 認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族をできる範囲で手助けをする。養成講座を受講すると認知症サポーターになれる。

※2 実務者研修 初任者研修の上位資格。介護福祉士国家試験の受験資格となる研修。訪問介護事業所のサービス提供責任者になることができる。

安藤なつ

1981年生まれ。2012年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成。ツッコミ担当。15年、日本一の漫才師を決める「M−1グランプリ」決勝進出後、バラエティー番組を中心に活躍中。その一方でボランティアも含めると約20年間介護職にも携わる。厚生労働省の補助事業「GO!GO!KAI−GOプロジェクト」の副団長。共著に『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)。

高山善文

ティー・オー・エス株式会社代表取締役。介護支援専門員。東京都福祉サービス第三者評価者。1966年生まれ。大学では社会福祉学を専攻。さまざまな施設で介護を経験し、2014年に独立。外国人介護人材、シニアビジネスをテーマとして仕事を行う。著書に『これ一冊でわかる!介護の現場と業界のしくみ第2版』(ナツメ社)、『図解即戦力 介護ビジネス業界のしくみと仕事がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など。

※週刊朝日ムック『早めの住み替えを考える 高齢者ホーム2023』より