タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今年も「金沢プライドウィーク」に参加しました。「金沢を安心して帰れる故郷にしたい」という性的少数者の人々の思いが、自治体や地元企業を動かしています。

 あなたは同性愛やトランスジェンダーへの偏見がありますか? 「はい、あります!」と答える人はあまりいないでしょう。偏りは自覚しにくいもの。「偏見はないけど、難しくてよくわからない」「偏見はないけど、身近にはいない」など、「ないけど」の後に続く言葉があるかもしれませんね。

 「偏見はないです!」と答えた人が、娘に同性の恋人がいると知った時にどうするか。「差別していません」と答えた人が、トランスジェンダーの部下が配属された時にどうするか。実際に自身の生活圏内で経験すると、混乱することもあるでしょう。差別や偏見をなくすことに賛同していても、自分ごととして経験して初めて、自身の本音や死角に気づくものです。多様性を尊重するのは、言うほど容易なことではありません。理屈ではわかっていても感覚が馴染めないということもあります。その複雑な実感を起点にして「差別のない世界」をどうやって作るかを根気よく考えなくてはなりません。

 立場によって、人の視点は変わります。社会の少数派や非主流に属しているときは、排除に傷つき、不安を感じるものです。

 多数派や主流に属しているときは「私は差別なんかしていないよ。そんなにいつまでも人との違いを気にしなくてもいいのに」と、相手に苛立(いらだ)つかもしれません。ないと思っていても、偏見は必ずあるもの。差別はしようと思ってするものではないことがほとんどです。

 多様性は半径2メートルの中にあります。それに気づくのが誰もが安心できる社会づくりの第一歩。同時に、日本でも包括的な差別禁止法の整備が不可欠です。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

※AERA 2022年10月3日号