作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。6人目のゲスト、脚本家・演出家の倉本聰さんが東大と北海道・富良野との縁を語ります。

*  *  *

大宮:「チック」で言いますと、私、東大在籍中に一つだけ記憶に残ってる授業があって。富良野に自力で来いっていう授業で。

倉本:ほう。

大宮:富良野に行って駅でぼんやりしてたら先生が来て。富良野にある東大の演習林で、きのこの話を聞いたり森の話を聞いたりして、メロンを食べて帰ってきたんですけど。すごく楽しかったんですよね。

倉本:何の授業ですか。

大宮:森の生態系を学ぶっていう授業で、森の中に放り込まれて、みんなで黙々と歩くような授業でした。

倉本:僕、演習林にちょこちょこ行きますけど。

大宮:えー! あ、富良野に住んでらっしゃいますもんね。移住して東大の演習林があると知ったときは宿縁を感じました?

倉本:それはちょっと感じました。ギョッとしました。「どろ亀先生」(故・高橋延清さん)って有名な林長がいてね。東大の教授なんだけど、この先生に、僕、富良野に来てすぐ知り合って、ずいぶん森を教わったんです。ある日ね、「倉さん、俺退役しちゃって仕事がねえから、オタマジャクシの研究を始めた」って言うんですよ。でね、演習林の三つの池にそれぞれ別の種類のオタマジャクシがいるって言うのね。

大宮:ええっ!

倉本:3年間それぞれを研究したら、分かんないことも出てきたから図書館で中学の参考書程度のオタマジャクシの専門書っていうのを読んだって言うの。そしたらなるほどって説もあったし、間違いがあるのにも気づいたって。この話を聞いて、僕はちょっと感動したのね。東大の教授でしょ。それが、本を読んで研究するんじゃなくてね、実地で研究して、あとで本を参照してる。学ぶってこういうことだなと思いましたね。

大宮:東大で教鞭(きょうべん)をとられるとしたら、どういうことを話されます?

倉本:うーん。僕は今、富良野自然塾で「闇の教室」っていう、真っ暗闇の中で、四季で変わるにおいや音を感じるってのをやっていて。

大宮:へえ、面白いな。それは野外でやられてるんですか。

倉本:いえ、地中です。「便利」って言葉をよく聞くけど、人間は本来自分のエネルギーで生きてたわけですよ。でも、脳が発達し、エネルギー消費をケチることを考え始めるんですね。だから家畜や奴隷に働かせ、今は化石燃料に働かせてるわけでしょ。で、自分は筋肉使わなくなってわざわざ金を払って、ジムに行って、何の生産性もないのにものを上げたり下げたりとか、どこにも行き着かない自転車をこいでたりとか、不思議な行動に出るわけですよ。

大宮:闇の教室、義務教育に入れたいですね!

倉本:そうです。僕、東大行かなかったからそう言うわけじゃないんだけど、学校教育は、根本的なところでズレちゃってるって気がするんですよ。だって、科学者が兵器を作ることに労力を使っているでしょ。そんなこと考える暇があるなら、温暖化の原因になる牛のゲップを集めて発電する方法を考えたほうがいい。

大宮:!

倉本:世界で排出される温室効果ガスの4〜5%を占めるっていうんだから。

大宮:そんなにですか。

倉本:僕は森を育てているんだけど、それはCO2を吸収し、酸素を産出する葉っぱをつくるため。みんなは金になる幹のことばっかり考えているでしょ。それを変えるために自然塾やってます。

おおみや・えりー/1975年、大阪府出身。99年、東京大学薬学部卒業。脚本家、演出家などを経て画家として活躍。クリエイティブのオンライン学校「エリー学園」「こどもエリー学園」を主宰。現在、瀬戸内国際芸術祭(岡山県・犬島)で作品「フラワーフェアリーダンサーズ」を展示中

くらもと・そう/1934年、東京都生まれ。59年に東大文学部卒業。ニッポン放送に入社。シナリオ作家として独立。77年、北海道・富良野に移住。主な作品にテレビドラマ「北の国から」など。近著にエッセイ『破れ星、流れた』(幻冬舎)

※AERA 2022年10月3日号