「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さんです。今回は、受験を直前に控えて公立の中高一貫か、私立かで夫婦で意見が分かれている、お母さんからの相談です。

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【相談】
小6女子母です。我が家は中学受験をやると決めた時、娘が「行きたい」といった学校が公立中高一貫校だったので、受験はその学校1本、ダメなら地元の公立中学、というのを親子で決めました。その言葉通り受験に向き合ってきたものの、娘が2学期の今になって「志望校がダメだったら私立に行ってはダメなのか」と言いだし、気持ちが揺らいでいます。夫は、下の子が二人控えていることもあり、「本人によほど強い意志がない限り経済的に私立に行かせる選択肢はない」と言っています。私は楽観的な性格なので「お金はどうにかなるかな」と思っていて、「娘に合った学校があるなら併願校を考えてみては?」と考え始めています。娘は学級委員タイプで人前でしゃべるのが好き。かつ作文も比較的得意なので、いわゆる新型入試も向いている?などと思っています。これからどう折り合いをつけていけばいいでしょうか?(小6女子母)

■お金だけは「何とかなるもの」ではない

安浪:お子さんが3人いらっしゃるということですね。現実問題として、お金は何とかなるものではないですよ。お金だけはちゃんと考えておいたほうがいいです。お母さんが、「お嬢さんのためになんとかしたい」という気持ちはわかりますが、後から自分たちの首を絞めてしまうことにもなりかねません。

矢萩:僕もそこは全く同感です。ちゃんと計算してみて、根拠を示した上で「どうにかなりそう」と思うならいいですが。それよりも、やはりその前に旦那さんとの合意形成は絶対に必要だと思います。どちらかというと今回の件はお母さんが独断で走ろうとし始めているように見えるので、そこが心配です。あとは、なぜここにきて娘さんが「私立に行ってはダメなのか」と言い出したのか、その理由をちゃんと話して引き出してあげたほうがいいですね。というのも、このご家庭では一度ちゃんと話し合って決めたんですよね。もちろん、状況は日々変わりますから、変更すること自体は問題ないですし、決め打ちするよりもよいと思います。ただ、変更したい理由を親子で共有し、ちゃんと向き合った上で合意することは必須です。揺らいでいるから選択肢を多く与えよう、では何も解決しません。

■最初に行きたいと言ったのが私立だったら?

安浪:お嬢さんが中学受験をしたいと言ったとき、最初に行きたいと言った学校が私立だったらどうだったんだろう、と思うんですよね。公立中高一貫校を選択される場合に多いのが、進学しても私立とは違ってそこまでお金がかからないから、それならば中学受験もアリだね、という考え方なんですよね。もし最初から私立のこの学校に行きたいっていうので始めていたら、ここに来て経済的に云々とか言わないと思いますし。

矢萩:そうですね。やはりこのご家庭では公立ありきで受験をスタートした感じはありますよね。

安浪:多分、お母さんは娘さんが頑張っているのを見て、応援してあげたい、という気持ちになっているんだと思うんです。それはすごくわかります。でも私立って実は学費以外にいろいろとお金がかかるんです。私立に行っても結局は塾に行く子がほとんどですし、部活や友達付き合いでもお金がかかってくるんですよね。もちろん、周囲に無理やり合わせる必要はないですが、そうなったときに「うちは別よ」ときちんと言えるかどうか。

■地元の公立にどうしても行きたくない場合は…

矢萩:地元の公立が嫌な理由が積極的にあるのであれば、私立を考えてもいいと思うんです。でも別にそうではなくて、公立中高一貫を受けて、駄目だった時のために一応用意しておきましょう、みたいなモチベーションだったら、本当にそれは必要なのか、というところですよね。私立に行くよりむしろ地元の公立に行ったほうが選択肢が広がるかもしれない。そのあたりをきちんと開示して話し合ってみるのがいいと思います。さっきのお金問題もそうですが、「うちは3人いるので、出せるのはこれぐらいです」とか、「私立に行ったらこれだけお金がかかるのでお小遣いはこれぐらいになっちゃうかもしれない、旅行も減らさないと」とか、現実的な部分も考えてみる。

安浪:公立中高一貫校が第1志望というご家庭に私立の併願をすすめることもあるんですが、それは先ほど矢萩さんがおっしゃったように、地元の公立にどうしても行きたくない、というケースですね。もしかしたら、お嬢さんがいま一緒に勉強している友達の中に、私立を併願する子がいて、その子の価値観にフワッと影響されているのかもしれませんが、たとえばそのご家庭は資金が潤沢にあって、一人っ子かもしれません。「うちはうち」という価値観をしっかり持っておかないと、これからの人生でも周りのいろいろな価値観に振り回されてしまうことになりかねないかな、と。

矢萩:具体的に親子で話していって、今ここで私立に行かなくても高校や大学でちゃんと協力するからね、って言ってあげることで「それじゃあ無理に今、私立を受けなくてもいいかな」ってなる可能性は高いような気はしますよね。

安浪:あとは現実的な問題ですが、今まで公立中高一貫校の対策をずっとしてきているわけですよね。今から受かる私立がどれぐらいあるかを考えた時、お嬢さんの学力はわからないのですが、なかなか厳しいと思うんですよ。私立型の勉強は公立の適性検査型の勉強と全然違うので。

矢萩:ご相談の中にあるように、公立校のような適性検査型入試や、新タイプ入試を行っている私立を受験したり、特待生制度がある私立を狙ったりする、という手はあるかもしれません。ただ、気をつけなければいけないのは、特待は3年間でははく、普通は1年なので、成績上位をキープし続けなければなりません。

安浪: むしろ、学級委員タイプで人前でしゃべるのが好き、作文も得意とのことなので、地元の公立に行ったら内申点が稼げそうですし、高校受験では有利になるんじゃないかと思います。

矢萩:そうですね。結局公立に行っても私立に行っても、大学受験をするなら予備校などを活用するのが普通ですしね。

安浪:いまの時期、お嬢さんに現実的なアドバイスをするならば、もし一般的な私立にも憧れて受験したいと思うならば、これから残り数カ月、今までの何倍も勉強しないとダメですよ、ってことです。いまの学力で受かるところだったらどこでもいい、というなら別ですが、私立型の入試では中堅校でも相応の知識を問われます。もちろん、国語か算数の1科入試、あるいは国算2科入試もありますが、中学に入ると周囲は理科や社会の知識を持って入ってきていて、中間や期末テストはその知識がある前提で出題されます。中学に入って、せっかく部活や学校生活を楽しみたいのに、その差を埋めるために勉強一色というのもつらいものがあるかな、と……。だから、本気で私立を受けたいと思うならば、相当覚悟して勉強を追加する必要がありますね。

矢萩:「ここの学校がダメだったらここでいいや」じゃなくって「ここに行きたい」という意思があるなら、それぐらいの覚悟も必要かもしれません。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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