「先生は、勉強を上手に教えられて当然、クラスをまとめられて当然」とのプレッシャーに逃げ出したくなる、と悲痛な叫びを投稿した32歳の小学校女性教員。励みになるような詩や言葉をいただきたいとの相談者の要望に、鴻上尚史が贈った言葉と詩とは?

【相談164】「先生」に対する世間のイメージに押しつぶされそうなことがあります(32歳 女性 トトロ)

 私は、大学卒業後から公立の小学校で働いています。大変なことの方が多くて、なぜこんな思いをしてまで続けるんだと自問自答する日もありますが、やはり子供たちと過ごす時間がかけがえのない宝物だから続けてきました。

 でも、この仕事を辞めようかと思っています。「先生」に対する世間のイメージに押しつぶされそうなことがあるからです。先生は、勉強を上手に教えられて当然、クラスをまとめられて当然、など、誰に責められたわけでもないのに、プレッシャーで逃げ出したくなることがあります。クラス分けをし、子供に圧力をかけて小さな枠の中に押し込むような、教育のあり方にも疑問があります。

 今は発達障害という言葉も一般的になってきています。あんなに狭い世界にいることを強制されて、ついてこられない子供がいるのも当然だと思います。でも、集団からはみ出る子が一人でもいることを、許せない教師もいます。どんな方法をとっても圧力をかけて自分の言うことは聞かせるように躾ようとする人もいます。私は、それは恐ろしいことだと思います。プレッシャーから逃げたい自分と、今は現状を変えられないけれどこういう考えを持っている人間が一人でも教育現場にいることで、誰かの力になれるのかもしれない、と考える自分の両方がいます。どちらかというと、辞めて逃げてしまいたい……という気持ちが勝っています。

 でも、自分に力がないから自信が持てずに逃げ出したくなるのだとも思います。とにかく本を読んだり、研修に参加して力をつけることで見えてくるものがあるのかもしれないと、必死に今もがいています。教育とは一体何なんだろうと思い悩みながらも、できることを日々がんばります。以前、女性の医師の方に贈られた詩が私の宝物です。まとまらない相談ですが、もし、何か励みになるような詩や言葉をいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。



【鴻上さんの答え】
 トトロさん。大変ですね。苦しみ、葛藤されているようですが、僕はトトロさんの相談を読んで、トトロさんのような人こそ、学校の先生であって欲しいと思いました。

 僕は演出家をかれこれ40年近くやっています。その間、いろんな演出家さんに会いました。自信満々に俳優に命令を出し続ける人もいれば、いつも不安で俳優の顔色を窺いながらお願いし続ける人もいました。

 いろんなタイプの演出家を見て、僕がなりたいと思ったのは、演出の指示をちゃんと出しながら、常に自分の演出を疑い、俳優やスタッフの声を聞ける演出家です。

 ちゃんと演出の指示を出し(時には自信満々に見えながらも)、これでいいのか、もっといい演出はないのか、もっといい伝え方はないのかと、常に試行錯誤を続ける演出家になれたらいいなと思っています。

 その意味では、「絶対の自信と安心」はないですから、不安になったり、迷ったり、プレッシャーに押しつぶされそうになります。でも、それは、より良い方向に変わるために必要なことだと腹を括っています。

 トトロさんが「教育とは一体何なんだろうと思い悩みながらも、できることを日々がんば」るように、僕もまた「演出とは一体何なんだろうと思い悩みながらも、できることを日々がんば」るだけなのです。

「本を読んだり、研修に参加して」トトロさんが力をつけようとするのは素晴らしいことだと思います。

 ただ、僕が心配するのは、トトロさんの文章から、トトロさんがとても真面目なんじゃないかということです。ちゃんと生活でオンとオフを使いわけていますか? 仕事の時は、オンですが、休みの時はすべてを忘れてオフになっていますか?

 俳優さんの中にも、とても真面目な人がいて、稽古休みの時も休演日の時もずっと芝居のことを考えている人がいます。あまりに深刻になったり、対象に対して距離が近くなると、見えなくなってくるものが生まれます。ですから、そういう人には、僕は「明日の休みは芝居のことはいっさい考えない。温泉でも海でも遊園地でも行って、どーんと遊べ!」と言ったりします。

 あと、プレッシャーを意識しすぎる時は、穏やかにかわす「スルー力」も必要だと思います。トトロさんが書くように、「勉強を上手に教えられて当然、クラスをまとめられて当然」というプレッシャーを感じた時に、「がんばろう」と思う時もあれば、「そうねえ、そうなれたら素敵ですよねえ」とノンキに答えて、息をつけるテクニックを身につけられたらと思います。

 僕は演出家として、あまりに大規模で「成功して当然、お客さんが入って当然」という大プレッシャーの作品を演出する時は、割と簡単に「僕一人の力では、完全に無理なので、どうか助けて下さいね」と各部署に言って回ります。言われた方は、演出家がわざわざ来るので驚いた顔を見せることが多いですが、悪い気はしてないと思います。

 さて、トトロさん。「何か励みになるような詩や言葉」ですね。言葉は「オンとオフ」と「スルー力」です。

 詩は、例えば、谷川俊太郎さんのこんな詩はどうですか?

 冬に

 ほめたたえるために生れてきたのだ
 ののしるために生れてきたのではない
 否定するために生れてきたのではない
 肯定するために生れてきたのだ

 無のために生れてきたのではない
 あらゆるもののために生れてきたのだ
 歌うために生れてきたのだ
 説教するために生れてきたのではない

 死ぬために生れてきたのではない
 生きるために生れてきたのだ
 そうなのだ 私は男で
 夫で父でおまけに詩人でさえあるのだから

 最後の二行を、
「そうなのだ 私は女で
(トトロさんの立場で、例えば)娘でおまけに教師でさえあるのだから」
 と口ずさむ時に変えても、谷川俊太郎さんはきっと許してくれると僕は思っています。

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