日本海溝地震、千島海溝地震、南海トラフ地震──。東日本大震災を超える被害想定の巨大地震のリスクが迫っている。今年9月末、政府は中央防災会議を開き、日本海溝と千島海溝の地震で甚大な津波被害の恐れがある108市町村を「津波避難対策特別強化地域」に指定した。巨大地震の被害を減らすために、どう備えればいいのか。2022年11月28日号の記事を紹介する。

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 今回、津波避難対策特別強化地域に指定された自治体では、津波避難タワーなどを整備すると、国からの補助金が従来の2分の1から3分の2に引き上げられる。さらなる避難対策が進むと期待されるが、いくらハード面を整備しても避難につながらなければ被害を防ぐことはできない。いま問題になっているのが、災害で犠牲になりやすい高齢者をどうやって避難に結びつけるかだ。

 内閣府が18年に公表した「防災に関する世論調査」では、防災訓練に参加しなかった理由として、60歳以上は「会場に行くのが大変だった」と答えた人が42.9%になった。避難を「しない」のではなく「できない」のだ。

■セカンドベストに注目

 そんな中、避難行動を起こすカギとして注目されているのが「セカンドベスト」だ。ベスト(最善)が無理でもセカンドベスト(次善)に避難する──。少しでも命を守り、先の避難行動につなげようという考えだ。

 高知県黒潮町。太平洋に面するこの町は、南海トラフ地震が起きると全国最大34メートルの津波が襲来するとされる。

 南海トラフ地震は、駿河湾から九州沖まで延びる南海トラフで起きるとされる巨大地震で、死者は最悪約32万3千人、経済被害は220兆円を超える。ここも14年に、30センチ以上の浸水が地震発生から30分以内に生じると見込まれる139の市町村が、津波避難対策特別強化地域に指定された。

 黒潮町には至る所に津波避難タワーが整備されている。しかし、町の高齢化率は約45%と、およそ2人に1人は高齢者。高齢者の多くは足腰が弱かったり持病があったり、移動自体が大きな負担になっている。

 町南海地震対策係の野村季史(としふみ)さんは言う。

「どうしても自力で避難できない方に、どうすれば避難していただけるか考えました」

 取り入れたのがセカンドベストだ。津波避難タワーでなく、家の玄関まで避難してもらうことにした。玄関先まで来てくれれば室内に捜しに入る時間や手間が省け助かる可能性が高くなる。「玄関まで避難」として実施すると、それまで23.5%程度だった訓練への参加率が100%になった地域もあった。

 セカンドベストを提唱した、京都大学防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)は言う。

「東日本大震災を受け、悲劇を繰り返さないために、最悪のケースを想定した避難計画が立てられ津波避難タワーなどベストな避難先が整備されました。一見、理にかなっていますが、大変なゴールを設定したため、そこに逃げない限り助からないと思うなど高齢者のモチベーションをなくしてしまうという大きな欠点もあったのです」

■「2階まで避難」も提唱

 他にも、矢守教授はセカンドベストとして「2階まで避難」も提唱している。津波を自宅の1階にいて諦めるのではなく、最大予想浸水深が2階に到達しないことを確認した上で、2階まで避難してもらう考えだ。

「こうして小さなステップでも踏み出せば、次はもう少しハードルを上げた訓練に挑戦しようという前向きな気持ちも生まれます。自分の命を自分の力だけでは守り切ることが難しい高齢者たちをどうするか。そうした人たちに目を向け、支援する仕組みを社会全体で考えていくことが大切です」(矢守教授)

 政府は、迅速な避難の徹底などで死者を8割減らせるとしている。いつか来る「その時」に備え、対策は待ったなしだ。(編集部・野村昌二)

※AERA 2022年11月28日号より抜粋