中学受験では、これまで4科(国・算・理・社)、2科(国・算)などの教科で選抜を行う試験が一般的でしたが、近年、多様な評価軸で受験生の力を測ろうとする私学が増えています。いわゆる「新タイプ入試」を導入する私学は、首都圏では150校にも及んでいます。なぜこれほど広がったのか、また中学入試にどのような影響を与えているのか――。「中学入試の今」をテーマにしたAERA dot.の短期集中連載、2回目は、新タイプ入試について考えます。

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■新タイプ入試が受験者数の増加の一因に

 新タイプ入試と一口で言っても、その種類はさまざまだ。首都圏模試センターによると、2022年度に実施された新タイプ入試は、公立中高一貫校が導入する“入試”に類似した適性検査型のほか、自己アピール型、思考力型、総合・合科型など10種に分類される。

 増えているのは自己アピール型入試だ。スポーツや習い事、趣味など、小学生時代に打ち込んできたことを、受験生がプレゼンテーションする。また高校で情報科目が必修になるなどICT教育の高まりを受けて、プログラミング入試を行う学校も増えている。

 22年度に新タイプ入試を実施した首都圏の私立中学校は、前年より2校減少し、150校だった。しかしのべ志願者数は、1万5500人から1万7067人と1500人あまり増えている。14年度に新タイプ入試を導入した学校は15校、志願者数は1989人だったので、10年足らずの間に約10倍に増えたことになる。

 首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成さんは、「8年間連続で私立・国立中の総受験者数が増えたのには、新タイプ入試の受験者増も一役買っています」と言う。

 聖学院のものづくり思考力入試は、提示されたテーマに対して自分なりの考えをレゴブロックで表現し、併せて作品を作った理由を作文に記す。八王子実践は4科・2科試験を廃止し、適性検査型、自己アピール型、英語入試など、すべて新タイプの入試に振り替えた。北さんは、こういった入試で入学した生徒は、学校を偏差値の序列で選んでいないため、ポジティブな気持ちで進学していると分析する。

「新タイプ入試は、自分の得意なことで入学しているので、学校に対する期待や愛校心が強い。生徒会活動や行事にも積極的に取り組む生徒が多いようです」(北さん)

■社会で求められている力を問う入試

 探究学習に詳しい「知窓学舎」塾長の矢萩邦彦さんも、新タイプ入試の広がりを評価する。

「従来型の教科入試は、詰め込みをして知識を蓄えないと点数が効率良く伸びないシステムになっています。しかし、いま社会で求められているのは、思考力や表現力。そういう力を問われる入試が増えるのは、歓迎すべきことだと思います」

 一方、広がることに伴う課題もあると、矢萩さんは指摘する。

「新しいタイプの入試には、残念ながら志願者を集めるためだけの奇をてらったものがあるのも事実です。アドミッションポリシー(学校による入学者の受け入れ方針)と合致している、あるいはその入試で入った生徒を伸ばすような、教育システムが確立されているような学校は評価できます」

 しかし、新タイプ入試をはじめ、入試問題の作成を外部に委託する学校もあるという。

「本来、入試が果たす役割は、選抜だけではありません。中高一貫なら、その入試で選抜した生徒を6年間教育していくわけです。先生方が忙しいのは分かりますが、そういう状況も含め、自ら入試問題が作れない学校や先生に、果たしてその生徒たちを指導していくことができるのでしょうか」(矢萩さん)

■公立中高一貫校の練習として受験

 私学の新タイプ入試は、09年度、宝仙理数インターが、公立中高一貫校で行われる適性検査と類似した「適性検査型」入試を導入したのが始まりだ。その後、徐々に参入する学校が増加した。

「公立中高一貫校と私立を併願する受験生が増えたことも、全体の志願者が増加した原因です。22年度は1万8000人が公立中高一貫校を受検し、そのうちの約6500人が私立と併願しています」(北さん)

 明治大学理工学部建築学科1年の安西里織さん(19)は、宝仙理数インターの卒業生。中高一貫校の都立大泉中を受検したが残念ながら不合格。練習として、本番前に受けたのが宝仙理数インターの適性検査型入試だった。

「大泉を落ちたら地元の公立中学校へ行こうと思っており、あくまでも練習のつもりでした」(安西さん)

 安西さん自身は足を運ばなかったが、母親が宝仙理数インターの学校説明会に出席。「良い学校」と、好印象だった。

「親からは、地元の公立でも宝仙理数インターでも、進学先は自分で決めていいよと言われました。勉強をがんばっていたので、せっかくだからと、最終的には宝仙理数インターを選びました」

 実際に入ってみると、自分に合っていたという。小学校から管楽器をやっており、吹奏楽部に入部。中学時代に、高校生の先輩と一緒に練習できたことが励みになった。

「学校生活は、本当に楽しかったですね。先生方が熱心で、職員室によく質問に行きました。良い友達にも巡り合えて、今でも時々会っています」(安西さん)

■中学入試の間口広げる 

 新タイプ入試が、中学入試の間口を広げたのは確かだ。北さんは言う。

「社会の変化とともに、教育を取り巻く状況も変わっています。大学入学の共通試験は、センター試験から思考力や読解力を重視する共通テストに変わり、国立大学協会も国立大学の推薦入試(学校推薦型選抜)、AO入試(総合型選抜)による入学者を定員の30%まで増やすと表明している。中学入試もこういった動きに連動し、より多様な評価軸で受験生の力を測ろうという方向に進んでいます」

 肝心の試験対策は難しい面もある。とくに適性検査型問題は記述が多いのが特徴で、さまざまな視点から出題されるため、引き出しを多く持っている受験生が強いといわれている。小さいころから博物館などに出掛けたり、図鑑や子ども新聞などを読んだりするとよいとされる。もし公立中高一貫校を併願する場合でも、私立受験塾に通っているならば、あえて公立中高一貫校対策の専門塾にダブルで通わせる必要はないとの見方もある。新タイプ入試を導入している学校は、説明会のときにプレ入試を行っているところも多い。受験を考えているならば力試しに参加してみるのも、対策の一手となるだろう。

(ライター・柿崎明子)