子ども時代は貧しい生活、奨学金と借金を駆使してハーバード大学に進学したパトリック・ハーラン(パックン)。貧しさを経験して、現在ではお金に困らない生活をしているパックンは、現在、「お金を持つこと」と「幸せに生きること」についてどのような感が方を持っているのでしょうか? 最新刊『パックン式 お金の育て方』から一部を抜粋・再編して公開します。パックンのお金についての連載、全50回の最後となります。
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■忘れもしない「生活保護」で苦しい少年時代
ここまでたくさんの記事を、連載で出してきたけど、ついにこれでフィナーレを迎えました! 読んでくれたみんな、ありがとう!
最後にもう少しだけ、僕がお金とどう付き合ってきたのかをお話ししておきたいと思います。
「お金持ちになりたい!」と思うことは誰でもあると思います。
では、お金持ちになるために大事なことは何だと思いますか?
僕が思うに、お金持ちになる一番の近道は……、お金持ちの家に生まれること!
でも、僕はこの点はミスってしまいました。
むしろ、お金持ちとはほぼ逆の環境で、子ども時代を過ごしたのです。
我が家の経済状況が悪くなったのは、僕が7歳のとき。
両親が別居して、その翌年に二人は離婚しました。
しかも不運なことに、その直後に母はリストラにあってしまった。
あのとき、僕は悲しかったし、不安だった。
けれど、「お母さんを支えなくちゃ」と子どもながらに思ったことを、今でも鮮明に覚えています。
そういうわけで、「生活保護」状態の経済的に厳しい暮らしが始まりました。
高校生になるまでカラーテレビを家で見たことがありませんでしたし、母親は1食89セントの予算を守るため、僕ら家族は、安い脱脂粉乳を牛乳の代わりに飲んでいました。
肉もほとんど脂がなくて、パサパサのターキー(七面鳥)のひき肉が基本。
あの頃は、ファストフードや炭酸飲料水はかなりの贅ぜい沢たく品でした。
そういう我慢を強いられる生活は辛かったです。
けれども、それ以上に、母親の涙を目にするのが辛かった。
アメリカでは普段の支払いを小切手で行います。
小切手の期日に銀行にお金がないと、残高不足でペナルティを取られてしまいます。
僕の母はよく、夜中に一人で小切手帳を見ながら泣いていました。
きっと、銀行の残高が心配でたまらなかったのでしょう。
そういう母の姿を偶然目にした僕は、母を後ろからハグして、「ママ、大丈夫だよ」と精一杯慰めたこともありました。
こういう環境で育ったから、いつしか僕はお金のことを考えるのが大嫌いになってしまいました。
母から、「お小遣い帳をつけるように」と言われていたけれど、それも嫌で続きません。
そして僕は、こんなことを考えていました。
「お金のことを考えなくて済むには、どうすればいいだろう」
「どうしたらこの状況を抜け出せるだろう」
これが、僕がお金との付き合い方を考えるようになった原点です。
■ついにたどりついた「パックン式 お金の育て方」
そして、たどり着いたシステムは意外とシンプルなものです。
1.徹底的に節約する
2.一生懸命働く
3.投資でお金を増やす
節約に関しては、そもそも無駄遣いをする余裕がなかった僕は、自然と身についていました。
大人になって余裕が生まれた後も、月の支出が収入を超えたことは、これまで3回しかありません。
働くことももちろん大切です。
実は22歳で日本に来る前、僕は新聞配達のほかに、庶務、道路工事、重機の操縦、フォークリフトの運転手、家庭教師、データ入力、役者、厨房の手伝い、寮の掃除、トラックの運転手などなどのアルバイトをやってきました。
働いて得るお金は、収入の基本なので、それを増やすのも大事。
だから今でも「どうすれば、僕という『商品』の価値を高められるのか」ということを良く考えています。
そして、経済的な自由が手に入っても「好んで」仕事を続けることは、僕の理想でもあります。
最後に、投資。
僕が投資を始めたのは、日本に来て2年半ほど経ったときです。
それまでは投資をする余裕はなかったのですが、奨学金を完済してようやく投資を始められました。
■やっと手に入れた、夢のような幸せな暮らし
そうして25年以上投資を続けてきた結果、僕は今それなりの財産を持っています。
都内には家があるし、かっこいいバイクもある。しかも、夢の外車!(……ヤマハですよ。僕にとっては「外車」ね)
さらに、子どもを何不自由なく育てることができていて、大好きな家族をミュージカルやコンサート、海外旅行にも連れて行けています。
今の生活は、僕にとって夢のようです。
子どもの頃に憧れていたケンタッキーフライドチキンの「パーティバーレル」をいつでも買えるなんて!
もちろん、島も買わないし、宇宙旅行もしないし、BTSを誕生会の余興に呼んだりしません。
でも、毎日の暮らしの中で使う分も、将来の安心のために備える分も十分なお金を持つことができました。
その意味では、もう十分、僕はお金持ちです。
そして、僕がやってきたお金の工夫は、ほぼ誰にでもできることです。
つまり、僕くらいのお金持ちになるチャンスは、みんなにあります!
節約と価値観の見直しで「必要なお金のレベル」をまず一気に下げて、懸命に働き、堅実に投資すれば、このお金持ちの水準は案外達成できるものです。
若いうちに頑張ると、中年になると余裕が出てきます。
普段からあまり無駄遣いをしなくなるし、海外旅行はできるし、子どもの学費も払えるし、結婚記念日に妻と一緒に「パーク ハイアット」で素敵なディナーを食べて、ライオネル・リッチーにも会えます。(まあ、それはたまたまだったけれど)
僕とビル・ゲイツやイーロン・マスクとは、もちろん資産の額は変わります。
でも、幸福の度合いは変わらないと思う。
お金に悩まないで、お金に振り回されないで、ほとんどお金を気にしないで、幸せな暮らしができる。それができれば十分じゃない?
こんな考え方ややり方をみんなに伝えたくて、この本を書きました。
じっくり考えて、「自分ならでは」のお金の育て方、幸せの育て方を見つけてください。ゆっくりでいいですよ。それが一番「賢い」お金との向き合い方のはずです。
地球上に生きている間、お金との付き合いは終わらないからね!
僕との付き合いも、これからもよろしくね!
(構成/増田侑真)
パックン
本名:パトリック・ハーラン。芸人・東京工業大学非常勤講師。
1970年11月14日生まれ。アメリカ・コロラド州出身。93年ハーバード大学比較宗教学部卒業。同年来日。97年、吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。NHK「英語でしゃべらナイト」「爆笑オンエアバトル」をはじめ、多くのテレビ番組に出演し、注目を集める。「AbemaPrime」「報道1930」でコメンテーターを務めるなど、報道番組にも多数出演。2012年10月より池上彰氏の推薦で東京工業大学の非常勤講師に就任。コミュニケーションと国際関係についての講義も行っている。二児のパパ。
25年以上の投資歴があり、金融教育の講師として全国各地で講演会も行っている。
最新刊の『お金の育て方』では、「生活保護」状態から「お金持ち」になるまでに身につけた、誰にでもマネできる、お金との付き合い方を詰め込んだ。