かつては「文系」のイメージもあった女子校の理系化が進んでいます。大学では2022年度に奈良女子大学が日本の女子大として初めて工学部を創設し、24年度にはお茶の水女子大学が共創工学部(仮称)を創設する予定です。また24年度から東京工業大学が女子枠を設けるなど、女子の理系人材育成に力を入れています。女子中高でも、理系教育に本腰を入れ始めています。その動きは入試にも反映されており、女子校で算数1科入試を導入する学校が増えています。学校の狙いはどこにあるのでしょうか――。「中学入試の今」を追うAERA dot.の短期集中連載3回目は、女子校に広がる算数1科入試について考えます。

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■算数1科入試は文部科学省の理工系人材育成強化の影響も

 そもそも算数1科入試は男子校から始まった。先鞭をつけたのは攻玉社で、1994年度に導入しており、すでに30年近い実績がある。その後、巣鴨、世田谷学園、高輪、鎌倉学園などの男子校も始めたが、女子校には長らく波及しなかった。その理由を安田教育研究所の代表・安田理さんは、「女子は算数が苦手という先入観があり、算数入試は受験生が集まらないと考えたのでは」と話す。

 算数1科入試を女子校が初めて導入したのは2018年度で、品川女子学院と大妻中野が実施。予想外に志願者が集まったため、他の女子校も実施するようになった。現在は田園調布学園、富士見、普連土学園、山脇学園、湘南白百合などが導入している。近年は共学校でも増えている。

 算数1科が女子校に広がった背景を、安田さんは次のように分析する。

「社会的な背景もある。今の日本の課題はグローバル化とデジタル化です。特にデジタル化は他の先進国に比べて1周遅れの状態で、国としても理系の人材を育てたいという狙いがある」

 学力の高い志願者を増やしたいという学校の思惑もあるようだ。通常の入試とは別に午後入試として設定している学校が多いのは、負担の少ない1科入試を設けることで、午前入試を終えた受験生の併願を見込んでいるのではないか。さらに安田さんはこう話す。

「算数が得意な生徒を入学させることで、その生徒が牽引し数学の授業を活性化させてほしいという期待もあります。学校は国公立大の進学実績を増やしたいと思っていますが、国公立大の定員は圧倒的に理系が多い。実績を伸ばすためには理数に強い生徒を育てる必要があり、そのためにも算数が得意な生徒に入学してほしいのです」

 算数1科入試の募集人員は各校とも5〜20人程度。入試問題の難易度は学校によってさまざまだ。2科、4科入試の算数とほぼ同レベルのところから、文章題に特化した思考力を要する難度の高い問題を課すところまで差があるので、受験を目指すなら過去問はチェックしておきたい。

 今のところ、算数1科入試で入学してきた生徒を対象に特別授業を行っている学校はないようだ。

「たとえば英語入試で入学してきた生徒の場合、英語は実力差が大きいので習熟度に分ける必要がありますが、算数は2科、4科の生徒とそれほど大きな開きがあるわけではないので、その必要はないのです。そもそも定員が少ないので、算数1科入試の生徒だけでクラスを編成するのは難しい」(安田さん)

 算数1科入試を行っている学校の調査によると、入学した生徒は概して他の教科の成績も良いという。20年度から算数1科入試を始めた富士見の入試広報部長・藤川建先生は、導入にあたり「過去10年間の算数と他教科の相関関係を調べたところ、算数の成績が良い生徒はおおむね4教科とも平均して高いことがわかりました」と話す。

「さまざまなタイプの受験生に来てほしい」(藤川先生)という狙いどおり、同校では実際に、この3年で受験者層の幅が広がったという。

 同校の算数1科入試の問題は大問3題で構成されており、問題用紙内に計算できるスペースを広くとっている。作問について、数学科の福田修平先生は次のように話す。

「何を目的に問題を作るか教員同士が話し合い、算数1教科でさまざまな力を測りたいという結論に達しました。そこで文章題に限定し、リード文を読解して必要な情報を探し出し、試行錯誤して解いていくような問題にしました」

 藤川先生は「難問が出題されるのでは、と思う受験生も多いようですが、決してそうではありません。基礎となるのは、中学入試に向けて取り組んできた学習です。多角的に考える力、粘り強く取り組む姿勢がある生徒にトライしてほしい」という。

 23年度は日本大学豊山女子が実施する予定で、今後も増えていきそうだ。「女子は算数が苦手」のイメージも、過去の話になりつつある。 

(ライター・柿崎明子)