腎臓は血液をろ過して、からだの中にたまった老廃物や余分なもの、水分などを尿と一緒にからだの外へ出す働きをしています。 この腎臓にできるがんは、かつては日本人には少ないとされてきましたが、食生活の変化などから生活習慣病が増えた1980年以降、増加の一途をたどっていて、近年は30、40代の若い患者も珍しくないといいます。

 腎がんは、初期は自覚症状が出にくいのが特徴です。進行して腎臓を取ると、人工透析などの腎代替療法が必要になることも。どんな人がなりやすいのか、早期発見のためにはどんな検査を受ければいいのでしょうか。本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。

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 腎臓はソラマメのような形をした、成人の握りこぶしよりもやや大きい臓器です。肋骨の下あたり、胃や腸の背中側に左右一つずつあります。この腎臓のうち、血液をろ過する主な役割を担う「腎実質(じんじっしつ)」という部分に発生したがんを「腎がん(腎細胞がん)」といいます。腎臓にできるがんの約9割が腎がんです。同じ腎臓でも尿を集める「腎盂(じんう)」という部分にできたがんは「腎盂がん」と呼ばれ、その性質や治療法が異なるため、腎がんとは区別されています。

■喫煙、肥満、高血圧がリスクに

 がん情報サービスの統計によると、2019年に、腎がん(腎盂がんをのぞき、尿路にできたがんを含む)だと診断された数は約3万例で、2020年の死亡数は約9700人でした。2〜3対1で男性に多く、50歳以降、加齢とともに増加します。

 鹿児島市立病院泌尿器科部長の五反田丈徳医師は、近年の傾向を次のように話します。

「最近は30、40代の患者さんも珍しくありません。腎がんの罹患年齢は低年齢化しているといわれているのです。腎がんの3大リスクは、喫煙、肥満、高血圧。若い人では喫煙率こそ減っていますが、食生活の変化により、肥満と高血圧の人は少なくありませんからね」

 がんが進行すると、がんがあるほうの腎臓を摘出することもありますが、腎臓が一つだけになると腎機能は低下してしまい、「慢性腎臓病(CKD)」になる可能性が高くなります。残った腎臓の機能が低下して腎不全になると、人工透析などの腎代替療法が必要になることもあり、血液透析では週に3回の通院で透析を受けることになるため、生活の質(QOL)への影響は少なくありません。

■人工透析を受けている人は腎がんになりやすい

 慢性腎臓病で人工透析を受けている人も、腎がんを発症するリスクが高くなります。腎機能の低下が進むと腎臓が萎縮(いしゅく)する「萎縮腎」という状態になります。人工透析のうち、血液透析を長期間受けている患者は、この萎縮腎に嚢胞(のうほう)ができていく「多嚢胞化萎縮腎(ACDK)」になりやすく、ACDKには発がん物質が蓄積されやすいため、腎がんを引き起こしやすくなるといいます。

 ほかに腎がんを発症しやすい病気として、遺伝性の病気である「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病」や「バート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群」が知られています。日本泌尿器科学会作成の『腎癌診療ガイドライン』によれば、日本の疫学調査で「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病」の患者のうち、50.3%に腎がんが発症するそうです。千葉大学病院泌尿器科講師の佐塚智和医師によれば、これらの病気を持つ人の腎がんは若年で罹患することが珍しくないとのこと。

「病気を持つ人の血縁者も腎がんが発症するリスクが高くなるため、該当する人には、早期発見を目的とした定期検診などのフォローアップを受けてもらうようにしています」

 ところで、冒頭で腎がんの罹患率は年々増加していると紹介しましたが、これは食生活の変化だけが原因ではありません。がん検診や人間ドックなどで見つかる早期の腎がんが増えていることも罹患率増加の要因と考えられています。

 腎がんの代表的な症状は「背中や腰の痛み」「血尿」「わき腹にしこりを感じる」の三つですが、こうした症状はがんが進行しないと出てきません。一方、がん検診や人間ドックでは、腹部超音波検査や単純CT検査がおこなわれているので、無症状の段階で腎がんを見つけることができるのです。

■リスクが高い人は、若いうちから検査を

 腎がんが増えてくる50歳以降はもちろん、血縁者に腎がんの人がいる場合、そして喫煙や肥満、高血圧など、腎がんのリスクが高い人は、若くてもこうした検査を受けたほうがいいでしょう。

「実は造影CT検査をすると、さらに、腎がんを見つけやすいのです。この検査では造影剤と呼ばれる薬を点滴で静脈に注入し、からだに循環させた状態でCTを撮影します。当院は救急病院のため、腎臓に限らず、さまざまな症状の患者さんがこの検査を受けるのですが、撮影した画像から偶然、早期の腎がんが見つかることが多いです」(五反田医師)

 五反田医師の病院では、腎がん全体の3分の2は早期がんだといいます。佐塚医師の病院でも、血尿などの自覚症状がきっかけで受診する患者は、腎がん全体の1〜2割程度です。

 腎がんになるリスクの高い人工透析の患者の場合は、通っている透析クリニックや病院で腎がんの検査を定期的に受けていると思いますが、注意が必要だと五反田医師は言います。

「医療機関によって検査の方法には違いがみられます。見逃しがないよう、できれば造影CT検査など、精度の高い検査を受けてほしいと思います」

■腎がんの治療の基本は「手術」

 腎がんの疑いがある場合は、確定診断のために前出の造影CT検査がおこなわれます。

「がんの大きさや広がり、場所などがよくわかり、画像から悪性腫瘍か良性腫瘍かの予測もできます。このため一部の患者さんを除き、生体の組織を採取しておこなう『生検』は実施しません」(佐塚医師)

 一方で、腎がんは肺が最も転移が多く、さまざまな臓器に転移する可能性があるため、腎臓の造影CT検査とあわせて、胸部CT検査、MRI検査などで転移の有無を確認します。

 次に、腎がんの治療について。治療は手術が基本になります。その方法は大きく二つ。腎臓からがんだけを取り除く「部分切除」と、がんがある側の腎臓をすべて摘出する「全摘手術(以下、全摘)」です。

 部分切除はがんが4センチ以下の場合、標準治療となっています。腎癌診療ガイドラインでは4〜7センチ以下のがんでも、転移があるなど、適応にあてはまらない場合を除いては、部分切除をすることがすすめられています。

■進行がんも、薬物療法の進化で手術が可能になってきた

 7センチ以上のがんは全摘が基本になります。これまでは開腹しての手術か腹腔鏡手術かの二択でしたが、2022年4月から、ロボット手術も保険診療の適応になりました。

 また、腎がんは他のがんとは異なり、たとえ転移があって手術で取り切れないとわかっていても、原発巣である腎臓を手術をすることが多いです。

「腎がんから分泌される産生物質を抑えることで、転移先のがんにも薬物治療や放射線が効きやすくなることがわかっているからです」(五反田医師)

 さらに、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの薬物治療が、腎がんの予後をよくしています。

「薬物療法は腎がん治療のゲームチェンジャーになりました。進行した腎がんでも、薬を使うことで長生きできるケースは増えており、当院でも手術後10年以上、お元気で過ごしておられるがんサバイバーの人が複数いらっしゃいます。今後も治療法の進歩にともない、腎がんの生存率はよりよくなることが、期待できると思います」(五反田医師)

(文・狩生聖子)

【取材した医師】
鹿児島市立病院 泌尿器科部長 五反田丈徳 医師
千葉大学病院 泌尿器科講師 佐塚智和 医師

「腎がん」についての詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、2023年2月27日発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』をご覧ください。