マッチングアプリの登録者が増加。実際にアプリを使って結婚した人も増えている。最初から趣味や価値観が合うとわかっている人と出会えれば、時間の無駄がない。婚活を効率化、時短化することで、結婚後に愛を育むゆとりが生まれてくる──? AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。
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結婚にまったく関心がなかったわけではない。だが、「仕事が楽しい」と言っているうちに気がつけば年月が過ぎていた。
ファッションエディターの40代女性は自身の婚活を振り返る。20代は合コンやお見合いパーティーに参加した。30代後半になり結婚相談所の入会を考えて相談に行ってみた。
「相談所の人に、30代後半女性の『婚活市場価値』を知らされてショックを受けました。マッチングアプリも試したけれど、やっぱり年齢で区切られて私は候補にも挙がらない。模索しているうちに、私が求めるのは、年齢に関係なく私の人柄を見てくれて、家族愛にあふれる人だとわかりました」(40代女性)
そうこうしているうちにコロナ禍に入り、外出がままならないなか、不安は募った。
■この1カ月は婚活優先
「そこで再びアプリを使い始めたんです。以前使ったのは日本のアプリでしたが、今回は『OkCupid』という海外製アプリ。登録者は外国人が多く、日本在住の外国人もいます。私は職業柄、英語でのコミュニケーションには抵抗がありません。それに外国人男性のほうが日本人よりも“若い女性”にこだわらない。使い始めて2週目には『いいな』と思う男性に出会えて、1カ月後にはアプリを退会。退会した時点では他に2〜3人とやりとりを続けていましたが、4カ月目には最初の男性だけに絞って交際を続けました」(同)
出会いから半年後には互いに結婚の意思を固め、翌年、婚姻届を出した。「アプリを使わなければ知り合えなかったと思う」という夫は年下。成熟した女性を探していたそうだ。
コロナ禍のためリアルで会う回数も限られ、互いの両親への挨拶も感染者減少のタイミングを計るなど手間取ったが、平時であればもっと早く結婚していただろう。時間対効果を意味する「タイムパフォーマンス=タイパ」という言葉があるが、厳しいと言われる40代女性の婚活ながら、恐ろしくタイパのいい婚活だった。そのポイントを女性は次のように語る。
「まず、つい仕事に夢中になってしまわないよう、『この1カ月は婚活優先』と決意しました。そして、徹底的に自己分析し、自分が結婚に何を求めているかを絞り込み、プロフィル欄に『私はこんな性格です。遊びのお付き合いは嫌。こういう性格の男性はお断り』と明確に書きました。多数から連絡をもらうよりも、本当に自分に合った人から連絡をもらえることが大切なので。とはいえ、好みじゃない人から連絡がくることもありますし、逆に好みの人とダメになることもあります。でもいちいち凹まない。『ハイ次!』と割り切ることも大切」
■愛はじわじわ芽生える
さらに、夫となった男性とは知り合って早々に結婚後の細かいプランを話し合った。
「『子どもはどうする』『どちらかが病気で働けなくなったらどうする』などかなり突っ込んだ質問をしてくれたので、私からもどんどん質問しました。気持ちを探り探り進める日本的な恋愛・婚活文化にドップリ浸かった人だと引いちゃうかもしれないですね」(女性)
そのような婚活で相手を「好き」になれるものだろうか。
「確かに、恋愛によくあるドキドキといった気持ちの盛り上がりはなかったです。でも最初から『この人は私の結婚相手だ』と思って接することができたので、互いに遠慮することなく、仲良くなっていくのは早かったと思います。結婚を決めたあとにじわじわと愛情が芽生えてくる感覚です。もちろん文化や価値観の違いは多少ありますが、そこは一緒に生活するなかで時間をかけて互いにすり合わせていくのも楽しみ」(同)
結婚は恋愛が先にあるべしという固定観念を捨て、相手とともに愛を育てていくものと捉えることがタイパ結婚のカギかもしれない。
「未婚の友人は『ご縁があったら結婚したい』と言うけれど、『ご縁』なんて生ぬるいことを言っていたら結婚できない」(同)
辻村深月さんの小説『傲慢と善良』(朝日文庫)が39万部超のヒットとなっている。ミステリータッチの恋愛小説で、アプリを使う婚活男女の心理に深く切り込み、「心えぐられる」という感想が多数寄せられているという。ヒットの背景に、アプリに対する関心の高まりもあるようだ。
実際、アプリによる婚活者は増加している。明治安田生命が1620人に行ったアンケート調査によると、2022年に結婚した夫婦のうち、22.6%が「アプリで出会った」という。
■合わなければ恋愛不要
マッチングアプリ運営会社などが参画する、一般社団法人結婚・婚活応援プロジェクト(MSPJ)によると、コロナ前からお見合いや社内恋愛の減少などが理由でアプリの利用者は増加傾向にあったが、コロナ禍でオフラインの出会いが減少し、寂しさを感じた人が多く、市場の成長が加速したという。また意識の変化も要因の一つと見ている。
「『ペアーズ』(エウレカ運営)が20代にインタビュー調査を行ったところ、『本当に自分に合う人でなければ無理に恋愛はしなくてもよい』『趣味などで楽しんでいるし忙しいので恋愛は今はしなくてよい』といった意見があったそうです。また、『恋愛関係に発展することで、学校や職場などの人間関係、グループ間の良好な関係を崩したくない』という意見もあります。アプリは、日常生活のリアルな人間関係だけでは出会えないような、趣味・嗜好が合うお相手を探すことができるため、若者のニーズにも応えることができると考えています」(MSPJ)
遠くにいる「自分に合った人」を効率よく探し出せるアプリ。相手が既婚者ではないか、体目的ではないか、ネットワークビジネスの勧誘を受けるのではないか、といった不安を持つ人も少なくないが、「MSPJの参画企業では常時監視や身分証明書による本人確認などを行い、安全対策に取り組んでいます」(MSPJ)という。
では、アプリは本当に「タイパがいい」のか。交際に至った時点で退会するサービスのため、結婚までの期間の正確なデータはないが、入会してから恋人ができて退会するまでの平均期間を一部サービスが公表している。ペアーズは平均3カ月、タップル(タップル運営)は、退会者の73.1%が3カ月以内となっている。
■アプリ疲れで相談所へ
K−POPアイドルファンの40代女性は、韓国イケメンを探してアプリを始めた。好みにドンピシャの男性から連絡がきてやりとりを続けたが、ある時、高級ブランド店でショッピングを楽しむ写真が送られてきて「投資に興味ある?」というメッセージが届いた。その後も3人の男性から同様の勧誘を受け、成果をあげられないまま、婚活アプリを使い続けている。
ネットでは「マッチングアプリ疲れ」という言葉をよく目にする。『結婚の技術』(中央公論新社)などの著書がある、結婚相談所マリーミー代表で恋愛・婚活アドバイザーの植草美幸さんは次のように語る。
「『アプリを使い続けても成果が出ない』と、結婚相談所に駆け込む方が増えています。その多くは、自己分析や結婚に求めるものを絞り込むことができていない。結婚相談所ではカウンセリングを通じてその方が結婚に求めているものを分析し結婚に導きます」(植草さん)
出会いも、その前の自己分析もアウトソーシングすることでタイパを高められる婚活サービス充実の時代、タイパ最悪の恋愛はもういらない!?(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2023年3月20日号