
36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判が続いている。初公判で明らかになった青葉真司被告(45)=殺人罪などで起訴=の動機、「小説をパクられた」というのはどんな作品のどの場面なのか。その後の裁判で、盗用されたと主張している京アニのアニメ作品の場面が法廷で流され、確認された。また、青葉被告が犯行直後に救急搬送される際に、警察官と交わした3分間の生々しいやりとりの音声も公開された。
* * *
警官 おい、名前言えるか? 言え。
青葉被告 青葉。
警官 なんでやった? 頑張って、言え?
青葉被告 パクられた。
警官 何を?
青葉被告 小説。
警官 小説? 小説パクられたからやった? 何に火をつけたんや、ガソリンか?
青葉 ガソリンや。
警官 あそこ(京アニ)は知っとるところか? 火をつけたところは?
青葉被告 知らねえよ。
警官 知らないのか、関係ないのか?

青葉被告 関係ない、お前らが知っているだろう。
警官 自分で言え、お前には責任あるだろう、言え!
青葉被告 お前ら全部知っとるだろう。
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警官からの問いかけは続いたが、青葉被告は大やけどの影響で意識がなくなったようで、無言になった。
■作品を送っていない段階で「パクられた」と思い込み
裁判で検察側が示した証拠によると、青葉被告は2009年ごろ、京アニの代表作「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」に感銘を受けてライトノベルを執筆するようになった。
2016年秋には「ナカノトモミの事件簿」と「リアリスティックウエポン」という2つの小説を「10年かけて書いた金字塔」と評し、自信を持って「京都アニメーション大賞」に応募したが落選した。
青葉被告が、警官とのやりとりで「小説をパクられた」などと繰り返していたのは、この小説のことだ。京アニのアニメで盗用されたというのだ。
裁判ではこの点について、検察と弁護側の双方がアニメのワンシーンを法廷で上映するという異例の方法で検証した。
盗用されたと主張するアニメは「ツルネ―風舞高校弓道部―」「Free!」「けいおん!」の3つ。
「ツルネ」は、男子高校生がスーパーマーケットで肉を見ている時に割引のシールが貼られているものを買ったシーン。
「けいおん!」では、主人公の女子高校生が後輩に「私、留年したよ」と話すシーン。
「Free!」は、舞台となっている高校の校舎にかかった垂れ幕がはためいている部分だ。
青葉被告は、
「ツルネは(小説の)ネタ帳に書いてあったもの」
「けいおん!」では、「小説の冒頭に留年というシーンを書いていた」
「Free!」では、「自由な校風を表現していた垂れ幕がパクられた」
などと説明した。
一方で、
「そのときはパクられたと思ったが確証があるわけではない」
「『けいおん!』でパクられたので、自分の小説からは該当部分を削除して応募した」
「3つのシーン以外はパクられていない」
とも述べた。
「けいおん」は青葉被告が小説を投稿する前のアニメ作品だ。つまり、青葉被告は2つの小説を京アニに送っていない段階で、また送ってもいない表現について「パクられた」と主張しているのだ。
青葉被告は、2つの小説をインターネットの小説投稿サイトでも公開したというが、それも京都アニメーション大賞で落選した後だった。
また、青葉被告は「パクった」のは、京アニの有名な女性監督だと名指した。
■「LOVEです」
被告人質問では弁護人から、
「監督には、『LIKE』か『LOVE』か」
と問われ、
「LOVEです」
と答え、恋愛関係にあったとした。
しかし、その“女性監督”とは、匿名で投稿しているインターネットの掲示板「2ちゃんねる」上でやりとりした相手で、
「会ったこともない」
と青葉被告は証言した。
結局、今回の裁判では、事件の動機という「小説をパクられた」ことも、盗用したと名指しする女性監督についても、青葉被告の一方的な思い込みによるもので、裏付ける証拠も合理性もみられない。
法廷での青葉被告の証言に、ある遺族の親族は怒りをこらえてこう話した。
「パクったというのが、あの程度。ネット掲示板の匿名の人を勝手に女性監督と思っていただけ……。怒りを通り越して、絶句する」
(AERA dot.編集部・今西憲之)