刑事ドラマでの取り調べといえば、「お前がやったんだろう!」と恫喝したり、「カツ丼でも食うか?」と刑事が被疑者に対して温情を見せたりするのが定番だ。しかし、『そこが知りたい!日本の警察組織のしくみ』(朝日新聞出版)の監修者である古谷謙一さんによると、カツ丼を食べさせるのは「自白に向けての利益誘導につながる」として、現在は禁じられている。これはカツ丼に限った話ではなく、パンやタバコなども禁止の対象になっている。

 取調室では食事ができないので、昼食などはいったん留置場へ戻り、そこで支給される弁当などを食べる。飲み物については、コーヒーやジュースなどはご法度だが、水や湯茶はOKだという。

 そもそも、「取調室=カツ丼」というのは刑事ドラマが作り上げたイメージである。戦後間もない日本では、安い割にはボリュームがあるカツ丼は一番の“ご馳走”だった。そこで、刑事の人情を喚起させるアイテムとしてカツ丼が出てきたのだ。人気の食事メニューといえば、ラーメンやカレーライスを想起しがちだが、ラーメンなどの麺類は伸びてしまうし、カレーは冷めると美味しくない。そのため、自然な流れでカツ丼に行き着いたようだ。

 しかも、現実世界でも「取調室の食事=カツ丼」を印象付ける出来事が起きている。1963年に東京で起きた「吉展ちゃん誘拐事件」では、名刑事とうたわれた平塚八兵衛が自白を引き出すため、取調室でカツ丼を振る舞ったという話が出てきた。平塚本人はこの話を否定しているが、カツ丼が取調室におけるご馳走というイメージが定着したきっかけのひとつとなった。

 こうして実際の警察組織と比較することで、刑事ドラマや小説をより深く楽しめるのではないだろうか。

 現在の取調室は、昔の刑事ドラマで見る「恫喝で自白を引き出す」という感じとは一線を画する。取り調べを録画・録音する「可視化」も進んでおり、法律を改正する審議も行われている。ただし、すべての事件で取り調べが可視化されるわけではなく、全事件の2〜3%程度になる見通しである。

 取り調べは長時間にわたって行われるが、日夜ぶっ通しで行われることはない。取り調べの時間は事件内容など状況にもよるが、基本は1日8時間以内で行う。被疑者には供述拒否権が認められているので、黙秘を貫くこともできる。

 また取り調べ中は、ずっと事件の話をしているわけでもない。もちろん事件の話が中心なのだが、被疑者の出身地や趣味といった事件に直接関係ない話もして、相手の心を解きほぐす。こうして信頼関係を築いて事件の核心に近づき、徐々に被疑者を「落とす」方向に持っていく。警察でもITを使った捜査が行われているが、この辺は刑事が長年培った「腕の見せ所」でもあるのだ。