世界的に通用する言葉になった「KAROSHI」。大手広告代理店・電通の新入社員の過労自殺もあって、問題への関心は高まっている。そんな中、日本最大の労働組合の中央組織「連合」が、高年収の人を労働時間の規制から外す制度について、条件付きで容認する姿勢を見せた。

 労働基準法の改正案に含まれる「高度プロフェッショナル」という制度で、高年収の人は深夜や休日に仕事をしても割増賃金などが支払われなくなる。労組側や野党などは「長時間労働を助長する残業代ゼロ法案だ」などと批判し、改正案の取り下げを求めてきた。

 労働問題に詳しい今泉義竜弁護士はこう指摘する。

「ブラック企業がブラックではなく、ホワイトになってしまう制度です。電通のような企業からどうやって過労死を防ぐかが課題だったはずですが、残業代をゼロにしてしまう制度を作るのは理解できない」



 連合も強く反対してきたはずだったが、神津里季生(こうづりきお)会長は7月13日、安倍晋三首相と首相官邸で会談。働き過ぎを防ぐ対策の充実を条件に、容認に転じた。

 執行部の一部が方針転換を主導したことに、傘下の労組からも反発があった。7月19日夜には労組関係者や市民ら約100人が連合本部前に集まり、「私の残業、勝手に売るな!」などと声を上げた。

 過労死防止に取り組んできた関係者も懸念を示す。「全国過労死を考える家族の会」の代表で、夫を過労自殺で失った寺西笑子さんの口調は厳しい。

「なぜ方針転換したのか理解できません。命の危険がある制度を受け入れるようでは、労働者の命や健康を守れません。裏切られた思いで、本当に怒り心頭です」

 寺西さんの連合執行部に対する不審は、実は以前からくすぶっていた。残業時間の規制について、繁忙期など特別の場合の上限を「月100時間未満」とする案を、連合は政府や経団連と3月に合意した。

「月80時間でも危ないのに、100時間ギリギリまではOKという誤った認識を植え付けます。とても前進とは言えません」(寺西さん)

 批判は強まるばかりで、連合は過労死などを巡る社会の意識の高まりに、十分対応できていなかった。こうした“空気が読めない”背景には、連合が抱える構造的な問題がある。

 680万人ほどの組合員を抱える巨大組織だが、6千万人ほどの国内の働き手全体からみれば、一部でしかない。連合の内部で発言力が強いのは、待遇に恵まれた大企業や公務員の労組の代表だ。長時間勤務が当たり前の「ブラック企業」で働く人らの切実な声は届きにくい。その連合が全労働者の代弁者として振る舞うことには、「勝手に労働者を代表するな」との意見もある。

 政府や経団連と、水面下で「条件闘争」を繰り返してきた手法も、不信感を招いている。労使が対立する問題があると、表向きは反対しつつ、ごく一部の幹部が相手と話し合って妥協点を探ってきた。政府や経団連に全面的に押し切られるより、労働者側にとって有利な条件を引き出す方が、最終的にプラスだとの考え方だ。労使の問題に妥協はつきものだが、水面下の交渉では、多くの人の納得は得られにくい。

 連合は今回、予想以上の批判を受けたことで、残業代ゼロ法案について政府や経団連との合意を見送る可能性も出てきた。連合が社会の〝空気〟をどこまで感じ取れるかが問われている。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日 オンライン限定記事