のどかな田園地帯が惨劇の場に変わった。祖父母や近所の女性を刺殺し、5人が死傷。SNSの発信はなく、近所とのつきあいもない容疑者の犯行動機ははっきりしない。

 神戸市北区有野町。港町・神戸を抱える六甲山の裏側に位置し、京阪神の奥座敷として知られる有馬温泉にほど近いのどかな田園地帯。茹だるような暑さが続く真夏の日曜朝、近隣でもひときわ古く豪壮な茅葺き屋根の古民家で、惨劇は始まった。

 兵庫県警が殺人などの疑いで逮捕したのはこの家に住む無職、竹島叶実容疑者(26)。母親の知子さん(52)の頭部などを金属バットで殴打し重傷を負わせ、同居する祖父の南部達夫さん(83)と祖母の観雪さん(83)を包丁で突き刺すなどして殺害、家を飛び出して2軒隣の辻やゑ子さん(79)をメッタ刺しにして殺害、さらに近くの65歳の女性を襲って重傷を負わせたとされる。

●母は金属バットで殴られ

 逃げ込んだ有間神社の境内で16日午前6時34分、有馬署員に身柄を確保された。達夫さん自らの110番通報からわずか15分後のことだった。

 知子さんは裸足で自宅を飛び出し、約200メートル北の街道沿いの書店前まで必死に逃げ、通行中の乗用車に助けを求めたようだ。日課のウォーキング中に通りかかった同区の団体職員、泉志朗さん(70)が振り返る。

「午前6時20分開始のラジオ番組が始まってすぐのことでした。血まみれの女性が車にもたれかかるように運転手と話していたので、交通事故かと思って近づいたら『息子に金属バットで殴られた。家にまだ父と母がおりますねん。助けに行ってください』としっかりした口調で繰り返していたんです」

 知子さんは右目の周りが紫色に腫れあがり、頭頂部がパックリと割れていた。泉さんはすぐに携帯電話で119番通報。ほどなく救急車が駆けつけ、パトカーなど警察車両数台が続き、現場一帯は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

「女性は、消火栓に腰掛けて救急隊員や警官に事情を説明していた。そのうち『被疑者を確保』という無線の声が聞こえ、帰りがけに神社の前を通りかかったときにちょうど容疑者が道路を渡ってパトカーに乗り込む様子も見えました」(泉さん)

●地域との接点はうすく

 達夫さんは神戸市消防局西消防署長まで務め、退職後も消防団や地域活動の世話焼きに熱心だった。事件2週間前の日曜日も、道路に伸び出した草刈りを地域の人たちと一緒にしていたという。幼なじみでもある村田昌弘さん(73)はこう語る。

「達夫さんのお父さんも役場の幹部をしていた名士で、男女合わせて5人ぐらいきょうだいがいて、うちひとりの弟も消防局に勤務してました。達夫さんとは頻繁に顔合わせてようしゃべる間柄やけど、孫が一緒に住んでるなんて聞いたこともなかったから余計驚いてますわ」

 竹島容疑者は地元の小、中学校を卒業後、5年制の神戸市立工業高等専門学校に進学して中退。同市内の専門学校に入り直してコンピュータープログラミングを学んでいたという。再逮捕直後は調べに対し黙秘をしていたが、その後は学業や仕事がうまくいかず、約半年前に仕事を辞めたことなど悩みを漏らすようになったという。近所でもほとんど存在を知られていない竹島容疑者は、神戸市の登録有形文化財に指定されている茅葺き屋根の古民家に引きこもってルサンチマンを募らせていたのだろうか。

 日本犯罪学会の影山任佐(じんすけ)理事長はこう分析する。

「家族だけではなく、近隣の面識のない人も襲っていることから、現時点で考えられる動機は二つ。自殺したいが自分では死にきれず、大量殺人を起こすことで死刑になろうとする考え。もうひとつは他者を殺すことで自己の存在証明を得ようというものです」

 知子さんは「思い当たるトラブルはない」と話した。竹島容疑者がSNSを使っていた痕跡も見当たらない。犯行にかりたてる“怒り”に火をつけた動機は何だったのか。

(編集部・大平誠、石臥薫子)

※AERA 2017年7月31日号