子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は、ライターの戸部田誠さんです。

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 大学の文学部に進学することになって、はたと気づいた。自分がまともに“文学”を読んだことがないことに。これはマズい。そう思って、上京後すぐに行ったのが神保町の古本屋だった。タイトルや表紙を眺め、面白そうな本をいくつか買った。いわゆる“ジャケ買い”だ。

 その中に高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』があった。特に印象的というほどでもない表紙で、タイトルだってハードボイルド小説を想像してもおかしくはない。しかも、当時僕は恥ずかしながら、高橋源一郎という存在さえ知らなかった。にもかかわらず、手に取ったのは今思えば不思議な話だ。でも読んだ瞬間、一気に虜になった。正直、意味はさっぱりわからなかった。けれど、そのわからなさの中に何かがあるんじゃないかと直感したのだ。何度も何度も読み返し、買う動機になった表紙はいつしかボロボロになってどこかに行ってしまったけど、思考する快感を知ったのだ。

※AERA 2017年8月7日