昨年来、レーダー照射問題や 「徴用工」 問題で悪化している日韓関係。ところが韓国では対日感情が極端に悪化していないという。理由は、あの国だ。

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 好き・嫌い以前に、韓国で日本の存在感が低下している──。そう指摘するのは、ソウル在住のジャーナリストで、朝鮮半島報道に特化した日本語ウェブサイト「The Korean Politics」編集長の徐台教氏(40)だ。

 徐氏は文在寅政権の中枢を担う世代についてこう分析する。

「1990年代に30代で、80年代に大学生で民主化学生運動に参加していた60年代の生まれが多い。韓国ではこの世代を『386世代』と呼びます」

 この世代の多くは現在50代。60代以上の世代が朝鮮戦争(50〜53年)の記憶から北朝鮮を敵視し、反共意識が高かったのに比べ、民族分断を克服すべきという意識が高い。徐氏は、彼らが朝鮮半島分断の起源を日本の植民地支配に求め、日本に対して潜在的な不快感を持っているとした上でこう解説する。

「現政権の最優先課題の一つは南北関係の改善であり、朝鮮半島の将来的な統一に向けた環境整備にある。そのため重視しているのは対米関係。日本は米国の言いなりという認識があるため、米国と北朝鮮の間で非核化と国交正常化(平和協定)を交換する交渉に結論が出ない状況下では、日本との関係を決めかね、後回しでいいと考えている」

 確かに、SNS上に飛び交うコメントをみていると、日本では圧倒的に韓国バッシングが多いが、韓国では日本バッシングは必ずしも多くない。

 韓国に「イルベチュン」という言葉がある。「イルベ」とはニュースや政治を扱う掲示板の名で、「チュン」は虫という意味。日本の「ネトウヨ」とほぼ同義語。イルベは、その右翼的な志向から「韓国の2ちゃんねる」と呼ばれることもあり、ユーザーの中心は若い世代の男子だ。ただ、彼らの攻撃対象は主に韓国国内の女性やLGBTなどのマイノリティーで、いわゆる「反日」色は薄い。

 彼ら韓国版ネトウヨの間で近年話題となっているワードが、「従北(親北)」だ。ソウル在住のメディア関係者はこう説明する。

「従北とは、北朝鮮に盲目的に従属する、つまり『アカ(共産主義者)』という意味。彼らは軍政時代の朴正熙大統領など伝統的な愛国保守主義を支持しているので、例えば、その娘である朴槿恵前大統領を弾劾するろうそくデモを仕掛けたのは従北者だと主張しています。全く関係ない相手に対しても、『あいつらは北朝鮮支持だ。従北だ』と感情的になるのです」

 現在の韓国は、海を隔てた隣国・日本よりも、政権が敵対から雪解けへとかじを切った地続きの同胞・北朝鮮のことで頭がいっぱいだ。

 かつて李明博大統領が在任中に竹島(独島)に上陸し、低迷していた支持率の上昇を狙ったことがあった。けれども政権も国民も対北関係に意識が集中している今の韓国では、日本を政治的に利用して得られる効果も、外交の優先順位もかつてとは比べものにならないほど低い。

 だから、メディアもかつてのような「日本バッシング」では数字を稼げない。一部とは言え、メディアが韓国たたきを売り物にし、「嫌韓本」が売れる日本とは、対照的な状況だ。

 前出の徐氏は、日韓のお互いの政治が機能していない今、両国の関係はしばらく停滞が続くとみている。そして、日韓関係は今後、北朝鮮という国家に翻弄され得ると予測する。

「唯一、日本と韓国の利害が一致するのが日朝間の国交正常化。けれども6者協議が破綻している今、日本がどんなビジョンを持ってこれを行うのかが見えてこない。そして北朝鮮との国交正常化が実現する過程で、日本は最低でも200億ドルと言われる植民地賠償金支払いの交渉に臨むことになる。この厳しい交渉に日本国民が耐えられるか、そして韓国がどんな立場を取るのか。すんなりとはいかないだろう」

(編集部・中原一歩)

※AERA 2019年3月4日号より抜粋