作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏はドラマに描かれる家父長制時代の父親について記す。



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 週刊文春のコラムで、青木るえかさんが“朝ドラのお父ちゃんが怖い”“いつか(お父ちゃんが)陰惨なことでもしでかすのでは”と書いていて、本当にその通りです! 怖いんです!と強いシンパシーを感じたので、週刊朝日でも勝手に“朝ドラのお父ちゃんが怖い”リレートークです。

 最初から嫌な予感はしていたのだ。今期の朝ドラ「スカーレット」、主人公は戦後の日本を生き抜く女性陶芸家、喜美子(戸田恵梨香)。前向きに人生を切り拓いていく朝ドラ定番の設定であり、父親役も、まぁ朝ドラ定番の、ザ・家父長である。

 家父長、それはありとあらゆる理不尽の権化だ。憲法が変わったことを(多分)知らず、女は所有物扱いで、大声出して暴れ、妻のへそくりを全て酒に使い、娘が進学したいと言っても「女に学問はいらない」の一言で諦めさせ、妻と3人の娘は常に父親の顔色や意見をうかがう日々だ。妻役の富田靖子の怯えた目や、悲しそうなたたずまいがもう、リアルDV被害者に見えてくるのだ。朝から気が重い。

 とはいっても朝ドラ。お父ちゃんのDV気質も、お父ちゃんの弱さや優しさの裏返し……のように描かれてはいる。父と対等に喧嘩できるのは妻ではなく長女の喜美子であり、大阪弁で繰り広げられる丁々発止の掛け合いも、ドラマ的には微笑ましいシーンのはずだ。でも、これが、全く微笑ましくなく、胃痛を感じるレベルなのだ。何故?

 お父ちゃんを演じているのは北村一輝。理不尽な男の演技がリアルすぎる、つまりは巧いのかもしれない。そしてまた、「スカーレット」が始まった頃、「ドラマの見所は?」と聞かれた北村が「自分かな」と笑っているのを見たのだが、北村自身が「愛されキャラ」を意識しているように見えてしまうのだ。怒声も、差別も、子どものような甘え方も、キャラとしての暴力、みたいな調子で。演技からも、脚本からも垣間見えてしまう、暴力男のキャラ化が、気の重い理由なのかもしれない。

 DV家庭に育った友人が、「今の朝ドラは嫌い」とハッキリと言っていた。彼女がテレビをつけたらちょうど、小学生の主人公が、知人宅で泥酔した父親を迎えに行くシーンがあったという。幼い娘に寄りかかりながら、お父ちゃんは文字通りでれでれと娘にしなだれかかる。

「小さい女の子が酔っ払った父親を迎えに行くシーンを、ほんわかした話として描かれるのはつらい。トラウマがよみがえる」

 それは彼女の幼い頃の体験そのものだったという。悲惨に凄惨(せいさん)に描いてほしいとは言わない。でも、横暴なザ・家父長が軽々しく愛すべきキャラ化されてしまうようなノリ、今の時代、追い詰められる気分にさせられる女性も少なくないのではないか。

 さて、2019年も出ました、国際ジェンダーギャップ指数。日本は114位(17年)だった最低ラインを更新し、121位に転落。やっぱ、そういう国で、暴力男だけど根は良い奴さ〜、みたいな物語、リアルすぎて怖いのかもしれない。

※週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号