TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は松田龍平が受け継いだ父・優作のオーラについて。



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 松田優作主演の「探偵物語」といえば、黒いスーツと派手なシャツ、タバコはキャメルでカルティエのライター、移動手段はイタリアンバイクのベスパと、いまだに熱狂的ファンを持つ伝説的テレビドラマだが、彼の血を継ぐ長男の松田龍平、次男・翔太は日本映画の将来を担う若手俳優である。

 長塚圭史作・演出の「桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡(もえてこがれてばんどごろし)」については先日触れたが、上演後、吉祥寺シアターのロビーで圭史と話しこむ長身の男性にはっとした。松田優作がそこにいるのかと思ったら、息子の龍平だった。佇まいこそ静かだが、そこかしこにオーラがあり、彼だけにスポットが当たっている気がした。

 その松田龍平が朗読する「不在証明 松田優作30年の曳航」を観たのはその2カ月後だった(11月22日 草月ホール)。共演は石橋静河、坪井美香。ライブペインティングは黒田征太郎。松田優作が歌った楽曲を、ZAZEN BOYS向井秀徳が斎藤ネコのバイオリンと奈良敏博のベースを従えて歌った。

 松田優作生誕70周年と歿(ぼつ)後30年。「不在証明」は、インタビュー、歌詞、セリフなどに残された彼の言葉を蘇らせる朗読劇。松田優作はその本気度とダンディズムが今も語り継がれる名優だが、今回は彼の言葉を息子である龍平がリーディング、「不在証明」というタイトルよろしく父の言葉を読みながらその不在を明らかにした。冬の雨の降る寒い夜だったが、会場には詰めかけた優作および龍平それぞれのファンの熱気が籠もっていた。

 1980年に松田優作は大藪春彦原作の映画「野獣死すべし」に出演している。どこまでも完璧主義者だった。街中でひっそり生きる主人公のイメージに少しでも近づこうと自分の足を5センチ切断できないかと医者に相談までした。185センチの背が邪魔だったのだ。しかし切れば一生松葉杖の生活になると断念し、今度は頬がこけて見えるように10キロの減量。さらにエラが張っているのも気に食わないと上と下の歯を4本抜いた。声がフラットになり、役柄に少し近づいた。

「派手なアクションよりも、日常の、それこそ箸の上げ下げに深い感情を込めたい。相手役の女優さんの手に触れただけで、思いが通いあうような、そんな演技をしてみたい」

 そんなセリフで松田優作が龍平に憑依したかと思えば、あくまで息子は父と距離を置きながらという雰囲気もあり、そこはどこにでもある父と息子の会話にも思えた。

 松田優作が、高倉健、マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアらと共演したのが「ブラック・レイン」(1989年公開)で、これが遺作となった。

「僕はブラック・レインが成功しようがしまいが、これからはUSAで映画をやると思う。家族も向こうに連れていく。向こうで普通に暮らして、普通に映画やる。時には子供も撮影所に連れて行ったりな。(略)絶対そうするから、な、……待ってろ」

 この部分のリーディングで龍平の声が少し湿った気がし、父の優作が家族をどこまでも大切にし、家族もそれをわかっていたのだと感じ入った。

 年の瀬の、南青山のライブハウスMANDALAで、偶然松田美由紀さんと隣り合わせになり、「不在証明」という家族の物語が僕の心にまだ響いているとお話しした。優作さんが通ったバーは「レディジェーン」といい、下北沢にある。今度また訪ねてみよう。

※週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号