新春ドラマ「教場」(フジテレビ系列)で主演を務めた木村拓哉さん。警察学校を舞台に、冷徹で厳しい教官を演じた。演技への取り組み方から作品への思い、さらに今年の抱負まで、たっぷりと聞いた。



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──原作は、累計70万部のベストセラーとなった警察小説『教場』(長岡弘樹著)。厳しい世界を描く作品だが、撮影を終えての感想は。

 警察学校というシチュエーション自体が、あまり馴染みがなかったこともあって、「リアルとの誤差」というものを常に考えながら撮影に臨みました。原作は、夢や期待、恐怖などを織り交ぜて存在しているので、それを具現化していくのは厳しいハードルがあって。原作の活字を目で追っていく分には情景も浮かんで、心情も理解できるけど、それを具現化しようとすると、非常に難しい。強い世界観をどうやって映像化するか、手探りで考えながら形にしていく道のりでした。

 本来の警察学校は、最後まで脱落者を一人も出さずに、いかに全員を各々の役割で現場に送り出すかということらしいんですが、この作品で僕が演じる人物は、警察学校を、ある種「ふるいにかける場所」であると考えています。何をやっても「モラハラ」「パワハラ」と言われるこの時代に、この作品を何が何でも作るんだという気概は、チーム全員に共通していました。

──原作のイメージを具現化するために、どんな工夫をしたか。

 まずは僕自身も、実際に警察学校に視察に行って、学校の様子や空気感を感じて、作品の元になる部分を見てきました。もちろんそこでは、一つのカケラしか見たり感じたりしてないと思うんですけど、実際にこれから警察官になっていく人たちが、警察学校という場所でどういう時間を過ごすのか、垣間見た気がします。

 警察学校のクラスという単位は、人生を通じての大きな存在になるんだろうなと感じた。ここまでの関係性を生み出す学校って何なんだろうって。小学校や中学校みたいな学び舎(や)とはまた違うものを感じました。そうやって感じたことを現場でどう変換させるか、いろいろと考えました。

──工藤阿須加、川口春奈、三浦翔平、大島優子をはじめとした生徒役のキャストとのやり取りで、特に印象に残っていることは。

 それ(話してたら)、夜になりますよ(笑)。でも思い返すのは、カメラの前でいかにノンフィクションのように動けるかを訓練する、作品とは別の“教場”です。

 撮影現場に入る前の段階で、カメラの前に立つにあたって、何もセットがないスタジオにキャストが集まって、何度かトレーニングのようなことをしたんです。その頃は夏で、みんな警察学校のコスチュームに着替えてからも暑くて、帽子を団扇(うちわ)代わりにあおいだりして。まだコスプレ感覚だったんです。自分も最初は風間公親(かざまきみちか)という教官役をやる木村拓哉、として現場に行って、教官として教室で号令をかけたりしてました。教官役だから、僕は一切動いてなくて、号令をかけてるだけ。動いてるのは彼ら(生徒役)だけなんですよ。

──コスプレ感覚からどうやって役に入ったか。

 何度かトレーニングを重ねた時、三浦翔平が「みんなで一度、パーソナルな時間を作りませんか?」と言ってくれて。僕も「いいね」って応じて、みんなで集まったんです。そこでみんなから「どうですか?」って聞かれて。それで僕は「いや、どうですか?じゃなくて。カメラの前に立つ状態が10だとしたら、今の自分たちは、いくつだと思う?」って聞いたんです。そしたら「2」とか「3」とかって数字が出てきた。その時もう、トレーニング期間は残り3回しかなかったから、「今日中に5まで上げようよ」っていう話をして。その瞬間に、全員がものすごいデカい声で「はい!」って言って。そこからですかね、急に撮影に向けて全員のギアが入ったのは。

──まさに自身が現場でも“教官”だったのか。

 いえ、そんなことはないんですけど。でも自分もしっかりと風間という人間の状態になって、現場に入るべきだと思ってそうしたんです。すると、暑いからって帽子であおぐ奴は一人もいなくなったし、これはちょっとかわいそうだったんだけど、待ち時間に、いすの背もたれを使う人も誰一人としていなくなった。終わってからも、みんなが「すみません、付き合っていただいていいですか?」ってやってきて。だから「もう帰っていいよ」という状態の中で、僕が号令をかけて、全員が一連の状態をいかにできるようになるかというのを、ひたすらやってました。すごい熱量でしたよ。自分も、自分以外の熱量も、すごいものがありました。フィクションとはいえ、真剣に取り組んだからこそ、楽しく感じられたんでしょうね。

──木村さん演じる風間という人物は、原作者ですら、まだ全貌が掴めていないという。自身は、風間という人物をどんなふうに捉えているか。

 彼は、もともとは現場で働いていた刑事。ある衝撃的な出来事を機に、どこか現実に対する彼なりの納得できない部分があって、それがずっと心のどこかに引っかかってる。その引っかかりがずっと取れないから現場から退いて、(警察官の卵という)“人”を強くするために教官になった。非常にストレスに満ちている人でもあります。僕も、彼の幸せって何なんだろうなって、ずっと探していました。ただ演じている中で、「あ、この瞬間かな」というのはあったから、救われた。一つ言えるのは、自分の幸せのために生きてる人ではないということですね。

──風間という人物に、個人的に惹かれるところはどんなところか。

 人としてすごく魅力を感じる部分であり共感できる部分は、絶対逃げないところ。自分もこうできたらいいなと思います。

──作品を通じて、何か変わった部分はあるか。

 今回この作品をやらせていただいて、警察官に対する見る目が変わりました。現場に立たれている皆さんは間違いなく警察学校という空間で、ある時を過ごしている。風間が、ある生徒に対して伝えるメッセージがあるんですけど、今まで自分の人生の中で警察官に持っていたイメージとはちょっと違う表現でした。

 僕自身、幼少期に習い事で剣道をやってて、その時の師範が全員警察官や刑事さんだったんです。だから警察官と自分には、実はリアルな接点があった。今までわりと安易に「ルールの人なんでしょ」と思ってたけど、そこにいたるまでの過程を、わずかながら知れたことでイメージが変わりました。

──今年の抱負は。

 オリンピックをはじめ、いろいろと大きなイベントも控えていますし、そんな中、自分がどんな現場に赴くことになるのか。決まっているものもありますけど、自分の取り組み方次第で大きく変わってくると思っています。

(1月8日に発売になるアルバムに関しては)いろんなアーティストの方が自分の背中を押してくれた。これを機に、マイクの前に立つシチュエーションも、視野に入れることになるのかなとは思います。

──新たに挑戦してみたいことはあるか。

 うーん、新たな挑戦というよりは、継続かな。演技にしかり歌にしかり、やってきたことを深めるような年にできたらと思います。

──2020年を、どんな年にしたいか。

 出会いの豊かな年にしたいですね。その中にはきっと、再会も含まれていることもあるだろうし。今回のドラマの中江功監督もまさにその一人だけど、「今回もよろしくお願いします」というシチュエーションもきっとある。今年は、国家レベルでアニバーサリーな一年になると思う。でもそこで浮かれることなく、ちゃんと地に足がついた状態で、少しずつでもいいから前進したいなと思います。

(構成/本誌・松岡かすみ)

※週刊朝日  2020年1月17日号