新型コロナウイルスに感染した志村けんさんが亡くなったことは、人々に衝撃と悲しみをもたらしました。私も、お茶の間に大いに笑いを届けた志村さんの死に、喪失感を抱えています。

 言うまでもなく、志村さんの生み出したキャラクターやコント、笑いのスタイルは偉大で、多くのエンターテイナーに影響をもたらしています。今回は、志村けんさんがYouTuberたちに与えてくださったことについてお話します。

 志村さんの影響を受けたYouTuberは少なくありません。ヒカキンさんも最も大きな影響を受けたのは志村さんだと語り、顔芸や変顔は志村けんさんの影響とおっしゃっていました。

 エンタメ要素の強いYouTuberは「面白さ」を研究するのが仕事です。インパクトのある見た目と動きとキャッチフレーズなど、志村さんを参考にするYouTuberが多いのも事実です。

 私も、志村さんのスタイルを取り入れて動画の制作をしているYouTuberの一人です。私の場合は、動画内のキャラクターやコントというよりは、仕掛ける側や演者としての影響が大きいです。

 志村さんといえば、「バカ殿」「変なおじさん」などのキャラクターをイメージする方が多いと思います。しかしながら、あの底抜けの明るさと面白さと笑いをもたらすコントは、全て完璧な台本を正確に演じることで仕上がっていると知る人は少ないかと思います。

 志村さんは、お笑い芸人というよりは、職人のような方です。彼の生み出したコントや笑いは、完璧な台本をもとに作り上げられた作品です。本人は、台本のキャラクターを演者として完璧に演じた方だったのです。

 著書「志村流」で、志村さんはご自身の性格について、決して明るい性格ではなく、落ち着いており、コントで演じるキャラクターのイメージと自分は違うと書かれていました。また、アドリブは苦手で、完璧な台本を演じることで笑いをとるスタイルとも書かれていました。“完璧に演じる”というコンテンツとの向き合い方は、私のYouTubeの動画作りに生かしています。

 YouTuberをしていると、必ずスランプや迷走や伸び悩む時期がきます。どうすれば面白い動画が作れるのか悩んだときに、参考にするのは先人の知恵です。私の場合は、志村さんでした。

 国民的なお笑い芸人としてお茶の間に笑いを届けたエンターテイナーが、どうやってコンテンツを作っているのかを参考にしようと「志村流」を読んだのが2年前でした。

 そして、完璧に台本を演じるプロとしての姿勢に、非常に感心しました。それから、私も動画内では完璧な台本を作り、演じるようになりました。

{!-- pagebreak[PM] “YouTubeの動画の中の自分”は、“本来の自分”とは違っていても大丈夫で、むしろ「完璧に演じることで多くの人を喜ばせる」というエンターテイナーとしての根本的な部分を教えてくださったのは、志村さんでした。

 志村さんは演者としてだけではなく、プロデューサーとしての才能も素晴らしい方でした。視聴者投稿ビデオを世界で初めて発案したのは、志村けんさんでした。

「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の「おもしろビデオコーナー」は、米ABCテレビにフォーマット販売され、「America’s Funniest Home Videos」(AFV)として、現在も続く30年以上の長寿番組となりました。AFVは志村さんの追悼ツイートをしました。以上の情報は、同じキッズ系YouTuberのフロリダさえさなチャンネルのパパ氏によるものです。

「おもしろビデオコーナー」に寄せられた動画は、視聴者に抽選でビデオカメラを貸し出して、動画を撮影させる企画でした。当時あまり普及していなかったビデオカメラを用いた企画は、スタッフの方々の懸念を押し切ってスタートしたそうです。

「素人である視聴者が動画を投稿する」企画は大人気となり、視聴者投稿ビデオとして普及し、そのフォーマットは100カ国以上に輸出されました。多くのテレビ番組に受け継がれています。
 
 そして現在、「素人が動画を投稿する」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはYouTubeです。動画投稿サイトとして広く普及したYouTubeは、いわばインターネット版の「おもしろビデオコーナー」です。その礎となったのは志村さんのアイデアです。

 志村さんがいなければ、YouTubeは誕生しなかったかもしれません。

 当時、志村さんの番組を見ていた方々や、おもしろビデオコーナーの大ファンだった方々がYouTuberになっています。視聴者が、素人が動画をつくる試みや面白さを、誰よりも先に見いだしたのは志村さんです。志村さんはテレビやお茶の間はもちろん、YouTuberにも非常に大きな影響を与えた方です。

 しばしば敵対していると捉えられるテレビとYouTubeですが、相互に作用するメディアであり、相乗効果ももたらします。志村さんのエンターテイナーとしての姿勢は、テレビで活躍するお笑い芸人の方々だけでなく、YouTuberの中にも、動画の中にも受け継がれて生きています。

 志村さんが、新型コロナウイルスに感染して亡くなられたことは、本当に残念で仕方ありません。間違いなく日本の宝と呼べる方です。もっと生きて笑いを届けたかったと思います。追悼の意を込めて、思いを書かせていただきました。