ガーシー被告=2023年6月4日、成田空港

 私は一生かけて謝罪をしたいーー。俳優ら著名人をYouTubeで繰り返し脅迫したなどとして暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)、威力業務妨害などの罪に問われた元参院議員のガーシー(本名・東谷義和)被告(51)は、9月19日に東京地裁であった初公判で、俳優の綾野剛さんら被害者に対し謝罪の言葉を述べた。ただ、起訴内容の一部は否認しており、今後の被告人質問などでの発言が注目される。

「被害者に対して罪の償いをどのようにやったらいいのか、ずっと考えていた。多大な精神的苦痛や経済的損害を与えてしまった。本当に申し訳ございません」

 ガーシー被告側は、起訴内容を大筋で認め、謝罪したが「常習性」は否認した。

 検察の冒頭陳述によると、ガーシー被告は韓国のアイドルグループに会わせるなどとうそを言って、女性らから多額の金銭をだまし取っていたが実現せず、だまし取った疑いがあると週刊誌で掲載されたため、日本を出国して、知人がいるアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに行き生活するようになった。

 2022年4月ごろ、YouTubeで「東谷義和のガーシーch【芸能界の裏側】」というタイトルで「芸能人との27年間の真実の情報をさらけ出す」と銘打って「暴露話」を流し始めた。

 番組開始から2カ月で100万人を超えるチャンネル登録を獲得して、YouTubeだけで1億1千万円の金銭を得たと冒頭陳述で明かされた。ガーシー被告は「アテンド」と称し、東京で有名人らに女性を紹介していたときの経験を「暴露話」として披露、同年7月にYouTubeのアカウントが凍結されてからも別のSNSで発信をしていたという。

 ガーシー被告のSNSは大人気となった一方で、ターゲットになった俳優の綾野剛さんら被害者にとっては死活問題だった。警視庁に刑事告訴したジュエリーデザイナーには、

「こいつは奥さんも子どももいます。よく知ってるねん、俺。お前がこんなこと告訴したら、嫁と子どもが余計、生きづらくなんで」

 などと配信しており、告訴の取り下げを要求するなどしていた。

■「ファンが離れ、精神が崩壊する」

 初公判では、綾野剛さんらの供述調書の一部も朗読された。

「CMスポンサーを打ち切られたり、冷たい目で見られたりしてたくさんのファンが離れ、精神が崩壊する。東谷被告は恐怖だった。信頼する気持ちや自己肯定感をズタズタにされ、悩み苦しみ刑事告訴を決めた。二度とこのようなことをしないでほしい。厳しい判決を望む」

 ジュエリーデザイナーの供述調書には、

「被告の動画、ジュエリーブランドの経営に影響し事業終了した」

「東京都内の店舗を契約していたが、被告の動画配信で事業が進まず、途中解約するにもできず、1億円以上の損失」

 と記されていたという。

 一方で、ガーシー被告は「暴露話」で一躍、知られる存在となり、2022年7月の参院選でNHK党(当時)から比例区で立候補し、28万票あまりを獲得して当選。だが、逮捕を恐れて帰国せず、参院議員は除名処分となり、強制送還のような形でドバイを後にして、逮捕された。

「ガーシー被告は逮捕された警視庁の取り調べにはほとんど応じず、言い合いのケンカになったこともありましたが、検察に対しては記憶している範囲を話して供述調書を作りました。罪になるとは思っていなかったけど、検察が法に照らして罪だとするなら従うとガーシー被告は決めていました。ただ、初公判で認めるかどうかはかなり悩んでいましたね」

 とガーシー被告に近い関係者は語る。

参院選の当選直後にドバイからユーチューブでの生配信で支援者らにあいさつをするガーシー被告

 昨年11月、ドバイで筆者はガーシー被告にインタビューをしている。そのときガーシー被告は、

「俺の言っている話は本当や。けど他のマスコミとかにはまったく相手にされない。それもあってうそを言っているように思われている。それが腹立つねん」

 と強い口調で話していた。

■当初は綾野剛さんを呼ぶことも検討

 当初、ガーシー被告は綾野剛氏らの証拠を不同意にして、裁判に証人として呼ぶことも検討していた。

「初公判では綾野剛氏らの供述調書が全文朗読されたわけではないです。実は、綾野剛氏はガーシー被告が暴露した女性と、ホテルに行ったことまでは調書で認めています。ただ、何もなかったと。最後の一線は超えていないということです。もう一人の男性も、ガーシー被告が紹介した女性と関係があったと調書では語っています。ガーシー被告は、まったくデタラメを言ったのではなく、ほぼほぼ暴露した内容は当たっていたのです。裁判の証拠でそこが明らかになったことで、ガーシー被告も公訴事実を認めたのです」(ガーシー被告の関係者)

 ガーシー被告の母親は兵庫県に住んでいたが、保釈に備えて東京に住居を確保した。保釈になれば、裁判所から指定される「制限住居」でガーシー被告と同居するつもりだという。

 そこでガーシー被告の弁護団を直撃すると、

「もし綾野剛氏らを法廷に呼んで争うとなれば保釈は認められず、ずっと拘置所のままになる。現在、15キロほどやせてしまい、事実関係を認めたのは健康面でやむなくというところもあります。やせた原因は、心労もゼロではないが、勾留された湾岸署では、脂っこい食事が多く糖尿病のガーシー被告にとっては厳しかった。母親がわざわざ東京まで来てくれて保釈に協力するということもある。ガーシー被告には、言いたいことは被告人質問でぶつければいいと言ってある」

 とのこと。

 果たして、裁判でガーシー被告の「爆弾発言」が出るのだろうか。

(AERA dot.編集部・今西憲之)