ネットでの誹謗中傷が社会問題になっている。加害者にも被害者にもならないためにどうしたらいいのだろうか。小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」8月号では、メディア・アクティビストの津田大介さんが、この問題について解説した。



*  *  *
 ツイッターなどを使った匿名の誹謗中傷に悩んでいたプロレスラーの木村花さんが、今年5月、亡くなった。まだ22歳だった。直前に「毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから」などと投稿していた。

 フジテレビの恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた木村さん。番組での振る舞いに対し「不快」「消えて」といった投稿が急増し、悩まされていた。

 ネットでは誹謗中傷が起きやすい。なぜだろう。

 リアルな世界では相手が生身の人間だと実感できるし、自分がやっているという自覚もあるから、面と向かって「お前、死ねよ」などと言う人は少ない。でも、ネットだと相手を傷つけているという実感も、自分がやっているという自覚も薄れる。「匿名だからバレない」と勘違いしている人も多い。目の前で言えないことを、平然と言えてしまうのは、このためだ。

 ネットの誹謗中傷は、短期間に、何十万という膨大な数が押し寄せるのも特徴だ。実はぼくもターゲットにされたことが何度もある。5分おきに何百通もの誹謗中傷が自分に届く恐怖や苦しさは、その立場になってみないと、なかなかわからないだろう。

 ネットでの誹謗中傷は、ひどい場合は裁判にかけられ、罰せられる。ただ、ヘイトスピーチなどの例外を除き、誹謗中傷と正当な批判の境目を単純に決めるのは難しい。受け手と送り手の関係性や、受け止め方など、言葉の内容以外にも考慮すべきことがあるからだ。

 しかも、個人が訴訟を起こすのは、とても大変だ。支援団体が少なく、精神的負担もあるなか、被害者が時間や費用、労力をかけなければいけない。相手を突き止めて裁判に至るまでに約1年、費用は60万〜80万円かかる。勝ったとしても、割に合うとはいえない。

 そこで、投稿者を突き止めやすくしたり、罰則を強化したりする動きを政府が加速させている。被害者を救うためにはいいことだ。でも、課題もある。

 一つは、悪質な誹謗中傷をした人すべてに罰を与えるのが難しいこと。数が多いので悪質性が高く、特定しやすい人を選んで訴訟せざるを得ない。

 もう一つは、罰則を強化すると「表現の自由」を狭めかねないことだ。たとえばドイツでは、違法な偽ニュースやヘイトスピーチを通報から24時間以内に削除できなかった場合、1件につき最大5千万ユーロ(約60億円)の罰金をSNSの運営会社に科す法律ができたが、その結果、運営会社が投稿を過剰に削除するようになってしまった。現在、削除基準を第三者委員会が決め、それに従って会社が運用する方法が検討されている。

 もし、きみが誹謗中傷の対象にされたら、自衛のためにスクリーンショットとURLを残すことが大事。被害を証明するには証拠が必要だ。そして信頼できる大人に相談しよう。

 木村さんの件でも問題になったことだが、テレビを見るときは、現実と作り話の区別をつけることも重要だ。憎しみの感情をたかぶらせて、みんなで盛り上がるタイプの番組などでは、ノリで自覚のないままひどい投稿をしかねないので注意しよう。自分がされていやなことは、リアルな世界でもネットでも、他人にしてはいけない。ネットの書き込みは、その人に直接話しかけるのと同じように、想像力を働かせながら行おう。(メディア・アクティビスト 津田大介)

※月刊ジュニアエラ 2020年8月号より