地対空迎撃システム「イージス・アショア」の配備断念を受けて、「敵基地攻撃能力の保有」の議論が自民党で急浮上している。しかし、米英軍ですらイラク戦争でミサイル発射機を壊滅できておらず、その実効性は怪しい。兵器導入にも莫大な予算が必要な上、憲法違反の恐れすらある。それでも攻撃力保有を押し通す背景には、自民党提言「丸のみ」の「防衛計画の大綱」がある。AERA 2020年8月3日号の記事を紹介する。



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 敵基地攻撃には、運用面、財政面、法理面という三つの無理がある。ここは潔く、イージス・アショアの配備断念にとどまるべきだが、自民党には「弾道ミサイルが発射される直前か、直後の攻撃が効果的」(小野寺五典防衛相)として限定的な攻撃能力の保有を追求する意見がある。

 現行の「防衛計画の大綱」は、護衛艦「いずも」の空母化や長射程ミサイルの導入など攻撃的兵器の保有が打ち出されている。実は、この大綱は18年5月の自民党による提言を「丸のみ」して、首相官邸で作られた。

 過去の大綱はすべて防衛省で作られ、自民党提言はほぼ無視されてきたが、現大綱は違う。自民党国防族は、自分たちの主張で作られた大綱をもとに、次には攻撃的兵器の保有を正当化しようというのだ。

 大綱を反映して、防衛省は戦闘機に搭載するノルウェー製の射程500キロのミサイル「JSM」の輸入を決め、米国製の射程900キロの同「JASSM(ジャズム)−ER」「LRASM(ロラズム)」の導入を目指している。これらを日本海上空から発射すれば、北朝鮮まで届くことになる。

 自民党の議論をにらみ、防衛省は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」導入の検討を始めた。ただ、省内には対外有償軍事援助(FMS)で導入した米国製兵器のローン残高が1兆6069億円に膨らんでいることから、「これ以上、米政府から買うのは無理」との見方が強い。

 幸いに、といっては語弊があるが、防衛省は「島しょ防衛用高速滑空弾」という名称の巡航ミサイルを開発しており、これを「南西諸島の防衛」から「北朝鮮の敵基地攻撃」に転用する案が浮上しつつある。

 北朝鮮が日本に弾道ミサイルを発射する場面では、韓国および在韓米軍基地を多く抱える米国との間の戦争になっている可能性が高い。朝鮮戦争の再燃、あるいは第2次朝鮮戦争である。

 その戦争が安全保障関連法で定めた存立危機事態に該当すれば、日本も参戦することになる。韓国政府の拒絶により、韓国の領土に立ち入るのは困難だとしても、自衛隊は米軍に追従する形で、兵器類を総動員して韓国の領空外、領海外からの攻撃に参加することになろう。

 その攻撃能力は、例えば中東など他の地域でも活用できる。敵基地攻撃能力の保有は、地域を選ばない「攻撃能力の保有」につながるのではないか。専守防衛の国是が危うい。(防衛ジャーナリスト・半田滋)

※AERA 2020年8月3日号より抜粋