新型コロナの影響で中止になった音楽イベントは数え切れない。そんな鬱屈した時に、サザンオールスターズは立ち上がって魅せた。「無観客ライブ」という新たな形が、明日への光に変わった。AERA2020年8月3日号から、50万人が熱狂したサザンの6月25日ライブレポートと、撮影・舞台監督が本誌に明かした制作秘話を紹介する。



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 画面には無人の客席が映し出された。広々とした場内にアナウンスが流れる。

「ご案内を申し上げます。公演中、立ち上がったり、大声で歌う、うちわ・扇子を頭の上にあげるなどの行為は……今回のライブに限っては他のお客様のご迷惑にはなりません! それぞれの楽しみ方で盛り上がっていただければと思います」

 6月25日。デビュー42周年を迎えたサザンオールスターズが1年ぶりにライブを開催した。会場は横浜アリーナ。最大1万7千人を収容できる会場に、観客の姿はない。サザン初となる「無観客配信ライブ」だ。

 公演名は「サザンオールスターズ 特別ライブ 2020『Keep Smilin’〜皆さん、ありがとうございます!!〜』」。オフィシャルファンクラブやLINE LIVE、U−NEXTなど八つのメディアそれぞれで販売される視聴券を購入すると映像が観られる仕組みだ。
■無観客ながら大会場

 昨年のドームツアー以来となる今回のライブは「“感謝”の気持ちを届けたい」という桑田佳祐(64)によって企画された。感謝の相手はファン、医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカー、そしてサザンのライブを一緒に作り上げてきたスタッフたち。新型コロナの影響でライブやイベントが中止になるなど、厳しい状況下にいるスタッフ約400人に仕事の場を提供する意味も込め、無観客ながらあえて横浜アリーナを会場に選んだのだ。

 そんな特別ライブは、開催発表直後から大きな注目を集めた。画面越しでも観客との一体感を生み出せるのか。配信が新たな収益源になりえるのか──。

「エンタメビジネスの今後のあり方を左右する」とも言われる中、桑田はライブの5日前、自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組で語った。

「コロナの影響でいろんなものが形を変える。そういうきっかけやチャンスになればいい」

 配信開始まで1時間を切ったころ、SNSには「部屋を暗くしてライブ感を演出」「シャワー浴びたし、飲み物も準備した!」などと、それぞれのスタイルで開演を待ちわびるコメントが並んだ。これまでになかったライブがスタートした。

■「いまこの時」を共有

 目の前に観客がいない寂しさはどこ吹く風。桑田が無観客ライブを楽しんでいる様子は、随所に見られた。

 たとえば1曲目の「YOU」。サビの「ユー!」に合わせ、桑田がカメラを力強く指さした。3曲目「希望の轍」では、「大変な毎日をご苦労様 今日は楽しく行きましょう」と歌詞を変えて歌った。観客と居場所は違えど、いまこの時、を共有しているメッセージだった。

 時折語りかけるMCタイムも、まさに桑田節。

「医療従事者の方々に感謝の意を表して、ここ横浜アリーナでライブをやらせていただきます。みんながいるから大丈夫。姿は見えないけど、みなさんの魂がここにあります」

 そう熱く語ったあとに「それでは最後の曲です」とボケることも忘れない。

 ロックナンバー「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」と「フリフリ’65」で温度が一気に上がる。映像はステージの俯瞰からメンバーのアップへ、さらには天井を這うように移動する「ウィングカム」でとらえた躍動感あふれるカットへと目まぐるしく切り替わった。
 撮影監督の森原裕二(48)は「観ている人たちがメンバーを近くに感じる映像を届けたかった」と話し、こう続ける。

「今回のようにステージの目の前に大きなクレーンカメラを置くなんて、これまでのサザンのライブでは絶対にやらないこと。無観客だからこそ置けたポジションなんです。カメラがどんどんステージに近づいていって桑田さんと目が合うような、観ている人を画面の中に引き込む映像が撮れたと思います」

 10曲目に披露された桑田&原由子のデュエットソング「シャ・ラ・ラ」では、二人の後方にあるビジョンに、たくさんのファンの姿が映し出された。

■背中越しの客席を映す

 ライブ開始からあっという間に50分が経過。ここでメンバー紹介をしつつ、カメラを指さし「飲み過ぎだってば! ちゃんとしなさいよ」と桑田がひと言。自宅で酒などを飲みながらいつもとは違うライブの楽しみ方をしているファンへの“注意”だったが、11曲目「天井棧敷の怪人」で女性ダンサーが現れると、出だしから「お前らいいかい 今夜は呑んじゃえ!!」と、先のフリをしっかり落とした。

 14曲目、「真夏の果実」のイントロが流れると、客席に取り付けられたリストバンド型ライトが一斉に輝き出した。幻想的な空間演出に、後日、桑田はラジオで「あれは見ないように歌った。見ると涙が出るから」と振り返っていた。

 この日のライブでは、演奏するメンバーを後ろからとらえた映像も多用された。前出の森原が、その意図を明かす。

「あの画(え)こそが今回のライブのテーマだと思ったんです。誰もいない客席に向かって演奏し、語りかけ、冗談を言い、本気で歌い続けている。あの“背中越しの客席”を撮りたかった」

 15曲目は疾走感あふれる「東京VICTORY」。ここでなんと聖火台が客席のド真ん中に登場。スタッフたちが桑田に合わせて拳を突き上げる。メンバーとスタッフの絆が力強いエールとなって画面越しに見つめるこちらの胸を打つ、格別の瞬間だった。
 いよいよライブは佳境に突入。18曲目「マンピーのG★SPOT」では、人数もセクシー度も倍増したダンサーたちが桑田のほうへ。いつもならお約束のごとく密になるが、今夜ばかりは濃厚接触はお預けだ。話題のアマビエ様をあしらったヅラを被った桑田が、カメラに向かって「疫病退散!」と叫びまくる。

 本編ラストは「勝手にシンドバッド」。「42年前のデビュー曲をお聴きくださーい!」という桑田の掛け声とともに、客席に降り立ったサンバダンサーや法被姿のスタッフがドンチャン騒ぎを繰り広げた。

 1時間40分の本編が終わると、SNSでは「アンコール!」の大合唱。4分後にメンバーたちが再びステージへ上がると、一斉に「キターーーー!!」。

 ラストの曲「みんなのうた」の前奏で、桑田はこんなメッセージをおくった。「人生は世の中を憂うことより 素晴らしい明日の日を夢見ることさ」

 この日の舞台監督を務めたのは、サザンのライブを長年支えている南谷成功(65)。

「個人的にこのメッセージほど響いたものはなかったです。今回、新しいライブエンターテインメントのあり方をサザンのみなさんが示してくれた。ファンを大事にして、医療従事者をサポートして、僕たちスタッフのことも救ってくれて。こういう輪が広がると、エンタメ界も元気を取り戻せると思うんです」

■「逆境」を逆手に取る

 桑田はこれまでも人々に寄り添う活動を行ってきた。2011年の東日本大震災では、5月下旬に宮城県を訪れ、「恩返しの気持ちを込めて、東北の地に歌を届けたい」という思いと、自身の病気からの復活の場としてライブを企画。6月末まで遺体安置所になっていた総合体育館で、9月にライブを開催。収益の一部を寄付した。南谷が続ける。

「東日本大震災のときも今回のコロナ禍も、真っ先に旗を掲げて駆けつける。『東京VICTORY』で一緒に拳を突き上げていたとき、僕も含めてみんな嬉し泣きしていました。僕たちはついていくばかりですけど、全力でサポートしたいといつも思っています」
 全22曲、2時間10分のステージが幕を閉じた。興奮冷めやらぬ中、映像が切り替わり、エンドロールにのせて桑田のソロ曲「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」が流れ始める。マスク姿でリハーサルを行うメンバー、そして今回のライブを一緒に作り上げたダンサーやスタッフたちの真剣な眼差しが映し出され、そこへ桑田の歌声が響いた。

 ライブの2日後、桑田はラジオ番組で次のように語った。

「リハーサルもライブ当日も、感染予防のためにスタッフ全員がマスクを着用。みんなのマスクにはスマイルマークが付けられていました。その光景を見たとき、今回のライブで届けたいメッセージを象徴していると思った。それは『逆境を逆手にとる』こと。ウィズコロナとはそういうことなんだと教えてもらった気がしました」

 配信チケット購入者数約18万人、推定視聴者数50万人。無観客だからこその映像を届け、日本中の人々と画面越しにつながる。これからのエンタメが進むべき方向を示す大きな道しるべとなった。ここから未来が始まる。(編集部・藤井直樹)

※AERA 2020年8月3日号