コロナ禍の中、国が打ち出した補助金などの対象から性風俗業者が除外された。政府の判断に合理性はあるのか。司法の場で議論が始まる。AERA 2020年9月14日号で掲載された記事を紹介。



*  *  *
「職業差別だとはっきりさせなければ、今後も別の災害などが起きたときに同じように扱われてしまうと思い、裁判で国と争うことにしました」

 西日本のデリバリーヘルスの経営者は取材にこう話した。

 この経営者が争おうとしているのは、新型コロナウイルスへの対応として経済産業省が行っている「持続化給付金」と「家賃支援給付金」の支給についてだ。一部の性風俗の関係者が対象外となっている。

 コロナ禍で半年近く赤字が続く中、従業員向けの宿泊所の確保をやめたり、広告費を削ったりしてなんとか営業を続けている。コロナの不安だけでなく、社会からのけ者にされたような悲しみや怒りにも向き合わされているのだという。

 電通などへの事業発注の不透明さでも批判を浴びた持続化給付金は、新型コロナで経営が悪化した中小企業などに対して最大200万円を支援するもの。一方、家賃支援給付金も売り上げが減った事業者向けに、最大600万円を支払う制度だ。いずれも「不給付要件」としてこう定められている。

「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する『性風俗関連特殊営業』又は当該営業にかかる『接客業務受託営業』を行う事業者」

■政府は「ずっと対象外」

 セックスワーカーらの支援団体「SWASH」の要友紀子代表(44)が説明する。

「フリーランスのセックスワーカーは対象とされていますが、一方で性風俗店やラブホテル、ストリップ劇場などの事業者側が対象から外されています」

 弁護団メンバーの亀石倫子弁護士は近く東京地裁に国を相手取り提訴すると話す。裁判では、憲法で保障される平等原則に違反しているかどうか、国側が裁量権を逸脱しているかどうかが争点となる見通しだ。

「不給付に合理的な理由が本当にあるのでしょうか。中小企業庁は、『これまでもずっと国の給付の対象外だったから、そことの整合性』と言っていますが、過去の取り扱い自体が正しかったのかどうかそもそも疑いが残ります」(亀石弁護士)

 現在、公共性の高い課題に取り組む訴訟について社会で支えようと弁護士らが昨年立ち上げた「CALL4」のサイトで、訴訟費用を募っている。

 風俗業で働く人向けの法律相談事業「風テラス」を手がける「一般社団法人ホワイトハンズ」(新潟市)の坂爪真吾代表は、今回の性風俗事業者の処遇に「またか……」と感じた。新型コロナで新設された支援制度で一部の風俗関係者が除外されたケースは、今年4月にも問題になっていたからだ。

 感染拡大を防ぐための学校休校に伴って、厚生労働省が新設した「小学校休業等対応支援金」制度。学校に行けなくなった子どもの世話のために働けず、所得を失ったフリーランスの保護者らが対象だったが、性風俗店やキャバクラなどで働く人たちが除外された。

 批判を浴び、菅義偉官房長官が国会で「見直しを検討したい」と発言し、軌道修正した。厚労省と経産省の支援制度では対象外となった人も異なるが、一部の風俗産業の労働者が除外されていた点は同じだ。

「厚労省の補償制度はキャバクラなど水商売も含めた話だったので同情が集まりやすかったのですが、今回、対象から外されたのは性風俗の事業者です。世間的な関心が集まりにくいのかもしれません」(坂爪さん)

 風テラスも8月に2回、提訴に関する事業者向けのオンライン説明会を開いており、支援のあり方を模索しているという。

■自民の政調会が認めず

 国の支援対象の決め方について、政治評論家の有馬晴海さんは「厚労省や経産省がどんな決定をしても、政治家が『違う』と言えば、ひっくり返ります。役人は情報を集めて提案するだけです。支援の範囲をどうするかというのは政治家のその時々の判断であって、瞬発芸みたいなものなんです」と説明する。

 今回は何があったのか。その一端を知るのが、学校休校に伴う補償の問題で菅官房長官に国会で質問した寺田学衆議院議員(無所属)だった。寺田議員は今回の持続化給付金でも対象範囲の見直しを求めているが、5月ごろ、こんなやり取りがあったという。

「中小企業庁の前田さんに直接連絡をしたのですが、『それは難しい』とけんもほろろでした。取り付く島もなかった」

 前田さんとは、「前田ハウス」で名が知られた前田泰宏長官だ。大臣官房審議官だった2017年、米国での催しに参加した際、「前田ハウス」と名付けた近くのアパートでパーティーを開き、持続化給付金事業を受注した「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」の理事を務める電通関係者と同席していたことで批判を受けた。

 寺田議員はその後、菅官房長官と直接連絡を取りながら、「法令に従って届け出もして、納税もしているのに給付が受けられないのはおかしい」と訴えた。これを機にいったんは対象の見直しについて政府内の了解がまとまりそうになったというが、最終的には与党・自民党の了承を得られなかったようだ。

「国民の理解が得られない、という話でした」(寺田議員)

 納税していない業者がいることも影響したかもしれないが、寺田議員は厚労省と経産省の事例の違いを端的にこう指摘する。

「学校休校の補償は政府だけの判断で事が動きましたが、今回は与党プロセスに乗せてしまったことで、厚労省のようには進みませんでした。自民党の政務調査会が認めなかったと聞いています」

 これは事実なのか。アエラは自民党政調会長で総裁選への立候補を表明している岸田文雄氏と中小企業庁に経緯の説明を求めたが、4日までに回答はない。(編集部・小田健司、川口穣)

※AERA 2020年9月14日号より抜粋