強い毒性と繁殖力を持つ外来生物「ヒアリ」の発見が各地の港湾で相次いでいる。羽のある女王アリも多数見つかり、国内への定着が強く懸念される。AERA 2020年10月19日号に掲載された記事で、攻防戦の現状に迫る。



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 9月17日、名古屋港で700匹。25日、同港で千匹。29日、横浜港本牧埠頭で数百匹。10月1日、東京港青海埠頭で500匹──。

 今年も、日本各地で強毒性の外来アリ「ヒアリ」の発見が相次いでいる。2017年に初めて見つかって以降、1日までに16都道府県で60事例が確認された。初確認時は「殺人アリの襲来」と大騒ぎになったが、ここ最近はニュースの扱いも小さい。しかし、実はいま、ヒアリの定着を防げるかギリギリの攻防が続いている。

 ヒアリは南米原産で、米国や中国、台湾、オーストラリアなどに定着している。刺されると、その名の通りやけどのような痛みが起こることが特徴だ。昆虫学者で国立環境研究所の五箇公一さんは、海外でヒアリに刺された経験をこう語る。

「数えきれないほどの大群が一斉に腕にまとわりついてきて、振り払う間もなく一気に刺された。火の粉をかぶったような、焼けるような激しい痛みでした」

■インフラも壊す厄介者

 さらに、体質によっては強いアレルギー反応「アナフィラキシーショック」を起こすことがあり、米国などでは死亡例も報告されているという。

「人を刺す以外にも、農作物を食い荒らし、家畜に被害を与え、配電盤や電気ケーブルに巣をつくってインフラを破壊することさえある。爆発的に増加するので生態系にも壊滅的な打撃を与えます。外来昆虫のなかではナンバーワンの危険度です」(五箇さん)

 ヒアリはコンテナに紛れて運ばれてくる。今のところ国内で見つかるのは港湾エリア内だけで、数世代にわたって繁殖した痕跡もないことから「定着にはいたっていない」とみられている。一方で昨秋以降、関係者は「明らかにフェーズが変わった」として、警戒を強める。

 象徴的なのが、去年9〜10月の東京港青海埠頭と、今年9月の名古屋港での事例だ。環境省の担当者はこう説明する。

「それまでは発見されても1〜2個体だった羽のある女王アリが、数十匹単位で見つかりました。産卵可能な女王アリが飛散した可能性も考えられます」

 環境省では、中国や台湾などからの定期コンテナ航路を持つ全国65の港湾で、夏と秋の2回、一斉調査を行っている。見つかった個体は殺処分するが、巣を直接破壊すると女王アリが飛散する危険があるため、毒餌を置いたり、殺虫剤を散布したりして対処する。完全に駆除できたかジャッジすることは難しく、昨秋の青海埠頭の事例では今年8月まで薬剤の散布を続けた。

「観察結果から、営巣箇所は駆除できていると考えています。一方、どの段階で駆除できたのかは正直わからない」(環境省)

■米では年1兆円の被害

 女王アリが港湾を出て新天地で繁殖を始めれば、拡散を防ぐのは段違いに難しくなる。環境省では、ヒアリが飛ぶとされる半径2キロを超える範囲でモニタリングを強化して調査を続けている。今のところ市中で巣をつくって繁殖している痕跡はないというが、こんな懸念もある。

「ヒアリはアンダーグラウンドでひっそりと数を増やし、巣を広げていく。そして対処不能な勢力になって目の前に現れます。仮に港湾から出て繁殖していたとしても、今の段階で見つけるのは困難です」(五箇さん)

 自治体レベルでヒアリを察知するセクションを設け、環境省などと連携して長期の監視を続けるしかないという。

 米国ではヒアリによる被害額と対策費の合計が年間1兆円を超えるとされる。ひとたび定着すると爆発的な増殖力ゆえに駆除は困難。水際での攻防が続く。(編集部・川口穣)

※AERA 2020年10月19日号