AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。



*  *  *
「在宅医という存在を知り、延命治療を断るために日本尊厳死協会にも入っていた私が、その時点で考えられるシナリオを書きました。自分が『こういうふうに死ねたらいいな』という思いを込めて作った映画です」

 そう話すのは、「痛くない死に方」でメガホンを取った高橋伴明監督(71)だ。

 プロデューサーから在宅医療のスペシャリストである長尾和宏医師の著書『痛い在宅医』を渡され、映画化を打診された。

「(在宅医療の現実を綴(つづ)った)この本だけだと映画にしづらい。どうすればいいかと考えていたら、書きたいことが見えてきた。宇崎竜童さん演じる末期がん患者の生き方と、映画の王道ですが、主人公が本格的な在宅医として成長していく話にしようと。口で説明するよりシナリオにした方が伝えやすいと、1週間くらいで書きあげました」

 在宅医として新たにキャリアをスタートさせた河田(柄本佑)だが、厳しい現実の中で自分の中に矛盾や葛藤を抱えて過ごしていた。そんな時、末期の肺がん患者・大貫(下元史朗)の担当になる。娘の智美(坂井真紀)が父のために“痛くない在宅医”を選択したのだが、結局、大貫は苦しんだ末に死んでしまう。

 自分を責める智美の言葉に、河田はたまらず在宅医の先輩・長野(奥田瑛二)に相談する。長野は肺がんより肺気腫を疑うべきだったと指摘。河田は智美に心からわび、長野のもとで在宅医のあるべき姿を模索するのだった。2年後、河田は末期の肝臓がん患者の本多(宇崎竜童)を担当することに……。

 チームとして機能する医師と看護師の結束力、医療チームと患者本人、家族との円滑なコミュニケーション。本多のケアを通して、在宅医療のあり方を考えさせる。

 また、「死」がテーマであっても映画はユーモアを忘れない。スパイスとなっているのが、本多がしたためる川柳だ。

「死を扱う映画だからといって、どんよりするのもイヤだった。ふと思いついたのが川柳でした。これなら医療の現場で実際に見たことにも触れられるし、本多の人となりを知ってもらえるなと」

 例えば、「尊厳を 遠くの親戚 邪魔をする」。高橋監督が実際の在宅医療の現場で「無駄な延命治療を望むのは近しい親族ではなく、突然出てきたような親戚がもっともらしく言うケースが多いと聞いて」作った。本多が震える手で最期に遺した「いちどだけ うわきしました ゆるせつま」には、きっぷのいい大工として生きたであろう本多自身の姿と、妻への愛がにじむ。

 本作を完成させて改めて、

「『こういう死に方でいいんだ』と確信が強まりました。僕にとってはもう一つ、安楽死の問題が残っているのですが、それはまだ自分の中で整理がついていない。次のテーマになるかもしれません」

 人は必ず死ぬ。死の選択肢を広げることは、生を輝かすことにもつながるに違いない。

◎「痛くない死に方」
2月20日から東京・シネスイッチ銀座、3月5日から大阪・なんばパークスシネマほか関西地方で順次公開

■もう1本おすすめDVD「エンディングノート」

 人は余命宣告を受けた時、どんな生き方ができるのか。

 本作の主人公は、熱血営業マンとして勤めた会社を67歳で退職してまもなく、ステージ4の胃がん宣告を受けた砂田知昭さん。娘の麻美さんが、「自分が撮りたくない時と父が撮られたくない時は撮らない」というルールを決めて、撮影者として冷静に父の最期の日々をカメラに収めた。

 手術もできない状態と知らされた知昭さんは「自らの死の段取り」を行い、家族のために「エンディングノート」と呼ばれる“マニュアル”づくりに取りかかる。

 その一つが葬儀だ。砂田家は仏教なのに、知昭さんが選んだのはカトリック教会でのキリスト教式。その理由は「最期に向かって信心深く過ごす」ためではなく、ずばり「リーズナブルだから」。家から近い場所、無駄なお金をかけないことなどの視点から、東京・四ツ谷の聖イグナチオ教会を選んだ。もちろん、葬儀のために洗礼を受けることも厭(いと)わない。

 ユーモアをちりばめた本作は「エンターテインメント・ドキュメンタリー」の言葉通り、泣いて笑って温かな余韻を残す。幸せな死に支度は、人生を輝かせる手段にもなる。

◎「エンディングノート」
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
価格3800円+税/DVD発売中

※AERA 2021年2月22日号