AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

訪れた温泉は約500湯。暇さえあれば女ひとりで温泉をめぐる「温泉オタク会社員」が語る、温泉の選びかた、楽しみかた。市井の温泉ファンならではの偏愛にあふれた、実用的な温泉案内だ。著者の永井千晴さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 訪れた温泉は約500。現在は会社に勤めながら、隙あらば女ひとり、温泉をめぐる──そんな市井の温泉オタク・永井千晴さん(28)が、温泉の楽しみかたと「推し」の温泉を紹介するのが本書だ。

「学生時代、温泉メディアのライターとして、ひとりで全国の温泉をめぐったのが、ハマったきっかけです。最初のスタイルのせいか、『ここぞという湯』に入るときはひとりがいいですね。一湯で集中できますから」

 日本には約3千の温泉と2万の温泉施設がある。熱海や別府といった有名なところもあれば、人里離れた山奥に一軒宿だけという温泉地も。規模も集客力も様々だが、少子高齢化の中、多くの温泉が「ギリギリ」で経営している。

「私が温泉オタクとして活動を始めたのは、多くの人に温泉に行ってもらい、現地で“課金”してほしいという気持ちからでした。自分の推しの温泉に行って、1泊することでその温泉が一日でも長く営業できて、最高のお湯が守られるのなら、温泉旅行も立派な“推し活”です」

 永井さんの温泉への情熱は本にもあふれている。「いつ行くか」に始まり、目的に合った温泉地や宿の選びかた、交通手段、宿での過ごしかた──など、温泉旅行を充実させる具体的な方法が見事に整理されているのだ。

「旅行雑誌では、読者の課題を考えてから書いていました。みんなが何に困っているのかを聞いてみると『自分が行きたいのがどんな温泉地なのかがわからない』と。一番大事な情報なんですが、たどり着くのが難しいんです。そこで本には東京と大阪から『1泊2日で行けるおすすめ温泉』などのチャートと具体的な温泉の紹介も載せました」

 収録されているチャートは、Twitterで6万8千リツイートされたそうだ。他にも「温泉で大事なのは鮮度」「宿泊と食事を分ける」「イマイチな温泉は計画と工夫で避けられる」「温泉を優先するなら10部屋未満の小さな宿へ」など、指摘されれば確かに──と思う、温泉との付き合いかたが満載だ。

 そんな永井さんがとりわけ薦めるのが「足元湧出」温泉だ。その名の通り、湯船の底である板の間や岩盤の隙間から温泉が湧いているというもの! もちろん新鮮で「匂いも肌触りも段違い」だという。

「湯守りという言葉がありますが、良質な温泉を守っていく方は今、本当に大変だと思います。静かに温泉を楽しむひとり温泉を推奨していきたいです」

(ライター・矢内裕子)

■ブックファースト新宿店の渋谷孝さんオススメの一冊

『ごほうびごはん』は、コロナ禍でのささやかな楽しみの見つけ方を教えてくれる、心温まるコミック。ブックファースト新宿店の渋谷孝さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 東京の中央線沿線の会社に勤務するOLが、1週間頑張った自分を労(ねぎら)うために毎週末「ごほうび」として、ちょっとした贅沢や一風変わったご飯を食べる作品です。地方に住む主人公の家族や親戚、会社の同僚、アパートのお隣さんなども登場し、食べものを中心に物語が広がっていきます。

 この13巻では、現実世界と同じ形で新型ウイルスの脅威が日常に影を落とします。主人公たちがマスクをつけ、仕事はリモートワーク、行こうと思ったお店が臨時休業など、これまでの当たり前から新しい暮らしを模索しています。

 いろいろと変わってはしまったけど、美味しいご飯は変わりません。ささやかな「ごほうびごはん」を楽しむキャラクターたちが魅力的な作品です。この13巻では表紙のキャラクター2人がマスクをつけているのも斬新でした。巻数はありますがおススメです。

※AERA 2021年3月1日号