落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「リバウンド」。



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 ここんところ『リバウンド』と聞くとコロナ感染者数ばかり思い浮かべてゲンナリ。これを書いてるただ今、3月末。すでにリバウンドが始まっているようで2週間後が恐ろしい。人類はリバウンドとしばらく付き合っていかねばならないのだろう。

「バスケットボールの跳ね返り」や「ダイエットの失敗」だけでなく、私たちの周りには『リバウンド』が至る所に転がっている。

 さっきトイレで用を足した。ちっちゃいほう。辺りに跳ね返った。リバウンドである。家内からは常に「座って小用を足せ」と言われている。正直、急いでる時はめんどくさい。「これくらいならバレないか」とリバウンドを拭かずに出る。入れ替わりに家内がトイレへ。「ちょっとっ!!(怒) 座ってしなさいよ!」「したよ!」「嘘!便座が上がったままだろがっ!(激怒)」。小言のリバウンドである。ものの数十秒で2リバウンド頂いた。

 小さな話だが、うちの引き戸の閉まりが悪い。常にリバウンドする。バイーン。「もーっ!」とヤケになって閉めると行ったり来たりしやがる。リバウン戸だ。グラッチェ。

 ご飯の水加減。年で目が悪くなってきたのか、目盛りをいつもオーバーしてしまう。結果、水っ気たっぷりのリバウンド粥。これに「梅昆布茶」の粉を少量入れて混ぜると美味しいよ。美味しさのリバウンド嬉しい。

 駅のホームはリバウンドの宝庫だ。駆け込み乗車のサラリーマン。乗り込む直前に扉が閉まる。決まり悪そうに引き返すリバウンダーたち。たいがい「なんともないさ」な空気を漂わせるが、こないだ見た外国人のリバウンダー。「ガッダムっ!(怒)」と地団駄。本場のリバウンダーはこうでなきゃ。でも駆け込み乗車、ダメ、ゼッタイ。

 電車内で時折、行きずりの赤ちゃんと見つめ合うことがある。私は子供が好きだ。お母さんの目を盗んで赤ちゃんを笑わしにいく。寄り目にしたり、メガネを上下させたり、手練手管でご機嫌を伺う。笑った。おちょぼ口にする。また笑った。舌をベロベロする。ケラケラ笑った。ひたすらに目ヂカラを込めて、口を半開き、目一杯に鼻の穴を広げた……めちゃくちゃ泣いた。リバウンド。異変に気づいたお母さんがこちらを睨む。2リバウンド。「やべぇ、降りなきゃ」と思ったら乗り過ごしていた。3リバウンド。

 寄席の楽屋。前座さんに聞くと、数は少ないがよく笑うお客さんだそうだ。なんならこれ、リバウンドじゃないの? よーし、と意気込んで高座へむかう。嘘つき。まるで笑わねぇじゃねぇか。いつものつかみのマクラもさほど響かず、ネタに入る。「こんなもんかな……」と半ば諦めつつも、「いや、投げちゃならん!」と、黙々と淡々とサゲ(オチ)へ。瞬間……ドーーーーンっ!!という地鳴りのような笑い声が上がった。初めは反応が微かでもお客さんと自分を信じてやってれば、たまーにこういうことがあるからたまらない。最高の『リバウンド』頂きました! いや、滅多にないけどね。

 リバウンドはどこへ飛ぶかわからないから面白い。あ、おしっことコロナ以外です。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

※週刊朝日  2021年4月16日号