五輪開催の雲行きが怪しくなってきた。4都府県に発令された3度目の緊急事態宣言をはじめ、ワクチン接種の遅れや東京の感染拡大といった課題や懸念も残る。開催できたとしても、変異株の流入の不安が募る。AERA 2021年5月3日−5月10日合併号から。



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 コロナウイルス感染状況が「ステージ4」の日本で、本当にオリンピック、パラリンピックが開催できるのだろうか──。

 政府が設置する「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が4月15日に導入方針を決めた新指標によると、ステージ4とは「感染爆発段階。爆発的な感染拡大が起き、医療体制の機能不全を避けるための対応が必要な状態」なのだという。

 4月21日現在、ステージ4を示す新指標の「入院率(すべての療養者に占める入院者の割合)25%以下」が、「大阪12%」「兵庫17%」と深刻になっている。同じくステージ4の指標の一つ「1週間の人口10万人あたりの新規感染者数25人以上」を上回っている「大阪」「兵庫」に加え、「東京」も日を追うごとに深刻度を増している。ゴールデンウィーク明けには東京の新規感染者数が2千人を超えるという試算もある。

 4月25日、この状況を受け政府は「東京」「大阪」「兵庫」「京都」に3回目の緊急事態宣言を発令する。期間は5月11日までだという。2回目の緊急事態宣言全面解除から約1カ月。その間、唐突に登場した感が否めないのが「まん延防止等重点措置」。これが変異株のまん延などの感染抑制にどれだけ効果を発揮したのかは全くの未知数。むしろ中途半端な措置が感染拡大を助長したと臆測する声が与党内からも上がる。

■対外アピールで解除

 コロナ対策を所管する厚生労働省のある担当者は頭を抱える。

「結局、分科会に出席の医療専門家は、3月初旬の段階で変異株による第4波の到来に備え、2回目の緊急事態宣言をゴールデンウィーク明けまで継続できないかと主張した。感染症対策の基本である、まん延してから宣言を出すのではなく、まん延させないために宣言という措置を講じる、という認識は西村康稔経済再生相以下、政府関係者全員にあったと思います」

 なのになぜ、緊急事態宣言の継続を検討しなかったのか。2度目の緊急事態宣言が解除されたのが3月21日。その4日後、福島県楢葉町と広野町にある「Jヴィレッジ」のグラウンドから聖火リレーがスタート。しかし、本来であれば記念すべきスタートを祝うセレモニーに菅義偉首相の姿はなかった。当日の首相動静によると、菅首相は参議院予算委員会に出席していた。

 ある政府関係者は、2度目の緊急事態宣言解除の最大の目的は、日本で五輪・パラリンピックが開催できるという対外的アピールだったとこう証言する。

「聖火リレー開始のニュースは世界を駆け巡ります。その時に日本は緊急事態宣言下である、という事実は、五輪・パラリンピックの開催にマイナスにしかならない。何しろ、まだ国際オリンピック委員会(IOC)は、開会式を予定通りの2021年7月23日に行うとは断言していない。首相が現地に行かなかったのも、行けば必ず緊急事態宣言のこと、第4波のことを聞かれる。五輪のシンボルである聖火を前に、そのことに答える画(え)を全世界に配信されるのを、どうしても避けたかったのでは」

■選手団を東京に送るか

 もし、五輪開催時、東京の病床使用率が50%を超えるなど「ステージ4」の状況で、200以上の国と地域から、総勢1万2千人。関係者を含めると5万人とも10万人とも言われる人びとを受け入れることが果たしてできるのか。

 3月1日の衆院予算委員会。立憲民主党・辻元清美議員から「東京がステージ4になったら五輪はできるのか?」と問われた菅首相は「IOCや組織委員会、東京都と連携し、安心安全の大会を実現する」と述べた。

 菅政権の最大の誤算は「ワクチン接種の遅れ」だ。そもそも、菅首相は今年1月の段階で「オリパラへの参加は、ワクチン接種を前提としない」と、IOCに伝えた。というのも、この時点では五輪・パラリンピック参加者はおろか、日本国民へのワクチン供給のメドが全く立っていなかったのだ。その後、ようやく2月17日から医療従事者、4月12日になって高齢者への接種が始まったが、16歳以上の全ての国民への接種終了のメドは全く立っていない。この事実がオリンピック開催に、今も暗い影を落とす。

 日本オリンピック委員会(JOC)の職員の一人は、五輪の日本開催ができるか以前に、そもそも海外選手団を日本に送れる状況か否かをIOCは見定めていると話す。

「五輪開催は、国内の感染状況によって決まると思われていますが、実際はワクチン接種もままならない日本に、そもそも選手団を送るか、という参加国側の意思決定の問題もある」

■変異の流入阻止は無理

 一方、海外からの変異ウイルスの流入を防ぐ最前線に立つ検疫官の一人は、政府は欧州や南米など29カ国・地域を変異株流行国に指定している状況で、仮に五輪関係者が入国の前提となる陰性証明を持っていたとしても、それで海外からの変異株の流入を阻止できるかと言えば、それは不可能だと断言する。

「現在、コロナウイルスまん延による入国拒否対象国からも人はやってきます。陰性証明があるから大丈夫と言いますが、その信憑性を担保できない国だってあるでしょう。政府要人は、検疫はノーチェックが慣例です。要人付きのマスコミなど関係者にも、どこまで徹底できるのか疑問です」

(編集部・中原一歩)

※AERA 2021年5月3日−10日合併号より抜粋