残念すぎて泣きそうです――。4月25日に発出された緊急事態宣言を受け、劇場や映画館が続々と休業や公演中止を発表、SNSでは嘆きの声も上がっている。一方、社会生活の維持に必要として、観客数を減らすなど対策をとった上で開催を続けるという判断をしたところもある。

■公演中止続々

 緊急事態宣言下で「休業要請」の対象となったのは、床面積の合計が1000平方メートルを超える大型施設だ。条件に該当する劇場などでは公演中止の判断が相次いだ。東京・初台の新国立劇場では、オペラ「ルチア」、演劇「斬られの仙太」が翌日の千秋楽を前に24日で終演に。5月1日〜8日のバレエ「コッペリア」、5月2日〜11日の演劇「東京ゴッドファーザーズ」も中止だ。

 緊急事態宣言は3度目となるが、決定から発出までがあまりに急な上、国や自治体からの連絡も遅れ、担当者たちは対応に追われた。新国立劇場の広報担当者はこう話す。

「23日には内閣府のコロナ対策室から事務連絡がなく、24日午前中に文書が確認できた。そこから公演中止が決定となり、1時半に発表。お客様からは『とにかく残念だ。出演者の気持ちを思うと無念』という声が届いている」

■観客半数で開催を決断

 混乱を回避するため、公演中止まで数日間の猶予を設けたケースもある。「4月25日から27日までの周知期間を設けたうえで、(途中略)公演を中止することといたしました」と発表したのは、東宝。4月28日〜5月6日の「モーツァルト!」(帝国劇場公演)、5月2日〜5月11日の「ジャニーズ銀座2021 TOKYO EXPERIENCE」(シアタークリエ公演)、5月10日〜11日の「ブロードウェイと銃弾」(日生劇場公演)が中止となる。4月28日から緊急事態宣言中の公演が中止となったのは、TBS開局70周年記念の舞台「刀剣乱舞」や、稲垣吾郎主演の「サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―」などだ。

 一方、都内の4つの寄席は、観客を定員の半数以下に減らし、公演を継続すると発表した。東京・上野の鈴本演芸場は公式ツイッターで、「4月25日以降の寄席営業について」と題し、「東京寄席組合(鈴本演芸場・新宿末廣亭・浅草演芸ホール・池袋演芸場)及び一般社団法人落語協会・公益社団法人落語芸術協会にて協議の結果『寄席は社会生活の維持に必要なもの』と判断し『4月25日以降の公演についても予定通り有観客開催』と決定いたしました」と報告した。

 公益社団法人落語芸術協会の担当者はこう話す。

「要請などの通達が直接あったのではなく、23日の報道で初めて知った。翌日には、25日からのことを発表しなければならなかった。今日26日の段階では役所等から取り立ててリアクションもなく、淡々と営業しています」。

■経済的な事情大きい
 
 新宿末廣亭の支配人、杉田京次朗さんはこう苦しい実情を吐露する。

「継続するのは、経済的な面が一番にある。赤字が続いており、お客さんの入場料で細々と食べている状況で、無観客にしろと言われてもできない。業種によっていろいろな形があり、寄席に対して無観客というのは意味がわからない。政府のやり方はいかがなものか。全くお客さんが入らないことも考えていたが、お客さんからは好意的に受け止めてもらっており、ありがとうと言われる。こういう時代だからこそ、笑いが必要だと考えています」

 1000平方メートル以下の商業施設で休業の「協力依頼」となったミニシアターでも、営業継続を決断したところがある。東京・渋谷の「ユーロスペース」では、25日から座席数を半分にして継続予定。渋谷の「シアター・イメージフォーラム」も、28日から座席を間引いて継続する。

■社会生活の維持に必要

 イメージフォーラムのディレクター、山下宏洋さんが言う。

「昨年4月の緊急事態宣言時は、今よりもっとわからないことが多く、約2カ月間休業しました。再開後、お客様から『映画館を維持してほしい』という声を聞き、上映する場を維持することは、社会生活を維持する上で必要だと改めて感じました。お客様の数も概ね変わらず好反応。日々判断しつつ、この状況を維持していく予定です」

 東京都の小池百合子都知事は、4月15日、都庁で応じた取材で「エッセンシャルワーカー以外、可能な限り東京に来ないで」と呼び掛けた。新型コロナウイルス以降、耳にする機会の増えた「エッセンシャルワーカー」とは、人々が生活する上で欠かせない業務に従事する労働者を指す。誰もが頭に浮かべるのが、医療従事者や介護・保育従事者、公務員、金融や小売店、運輸・物流にかかわる人だろう。

 では、文化に携わる人は、人々が生活する上で欠かせないエッセンシャルワーカーに該当しないのか。芸能ライターのエリザベス松本さんが言う。

「無観客配信があるじゃないかと言われますが、劇場という空間に身を置き、いろんなことをシャットアウトしてひとつのことに集中できる環境は、ほかにあまりない。寄席の方々の『社会生活の維持に必要』という言葉に、激しく同意します。今は観劇する側も可能な限りの感染拡大防止策を講じており、一緒に行った友達とも直接会話せずラインで話をするなどして、幕間のロビーやトイレは非常に静か。一方で、舞台や映画を観に行けないことで、ストレス過多になる人は多いのでは。現に、私がそうですから」

■先に議論しておくべきこと

 26日の記者会見で、西村康稔経済再生担当相は、緊急事態宣言期間中も営業を続ける演芸場に対し、変異株を理由に「休業要請に応じてほしい」と理解を求めた。

 感染リスクを下げる必要は理解できる。ただし、痛みを伴う自粛を要請するには、何を社会生活の維持に必要とみなすか、緊急事態宣言の具体的な目標をどこに置くのか、休業を要請したり依頼したりする場合の連絡体系や補償の整備など、先に議論しておくべきことが置き去りになっていることは事実だ。(ライター・羽根田真智)

※AERAオンライン限定記事