「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が2018年5月に覚せい剤中毒で怪死した事件で4月29日午前、和歌山県警は殺人容疑などで逮捕した元妻の須藤早貴容疑者(25)を送検した。



 事件当初から野崎さんが死亡した現場には、須藤容疑者と家政婦しかおらず、「疑惑の人物」と和歌山県警にマークされていた。

「須藤容疑者が覚せい剤を入手していたという接点がしっかりと得られたことが重要だった」(捜査関係者)

 しかし、和歌山県警はこれまで数十回にわたり事情聴取してきたが、須藤容疑者は容疑を否認。発想を転換し、須藤容疑者しか犯行に及ぶことができない、動機があるという「消去法」で捜査をしてきたという。

 和歌山県警の逮捕時の記者会見では、須藤容疑者の認否については明かされていない。

「これまで3年近く否認してきたわけや。逮捕されたから、すぐやりましたなんて、まあ喋らんよ」(前出の捜査関係者)

 覚せい剤という凶器を使っての密室での犯行。目撃証言もないことで捜査は何度も暗礁に乗り上げた。しかし、和歌山県警では過去にそっくりの事件があった。

 1998年7月、和歌山市園部の夏祭りの屋台に出されていたカレーにヒ素が混入され、4人が死亡、67人がヒ素中毒となった和歌山カレー事件だ。

 カレーの調理現場には複数の住民がかかわり、足を運んでいた。逮捕されたのは、林眞須美死刑囚(死刑判決確定)で、立件のポイントなったのが、一般には流通していない、猛毒のヒ素を所持していたこと。カレーの調理現場で林死刑囚が一人になる場面があった、近所との折り合いが悪く、トラブルが多々あり、カレー調理時も険悪な雰囲気だったことで激高したことなどが動機とされた。つまり、林死刑囚しか犯行に及ぶことができなかったという「消去法」で立件したのだ。

 和歌山県警は須藤容疑者が覚せい剤を入手していたことは認めている。

 野崎さんが自宅で急死した時、須藤容疑者が第一発見者で、妻として食事を作るなど、覚せい剤を混入する機会が多くあったとみられる。
そして動機もあった。野崎さんが経営していた会社の元社員の証言だ。

「野崎さんは東京から和歌山になかなか戻らない須藤容疑者に『もう離婚や』と怒っていた。遺産は長く飼っていた愛犬のイブに相続させると話していた。須藤容疑者には毎月100万円がお手当で払われていたが、『和歌山に来ないなら払うのは、もうやめや』とも言ってましたわ」

 須藤容疑者は野崎さんが死亡後、経営していた会社の役員に就任し、4000万円近くの報酬を得ていた。また、会社の預金口座から、多額の金が須藤容疑者に入金されていたとの情報もある。

「須藤容疑者が55歳も年上の野崎さんと結婚したのは、カネでしょう。野崎さんが死亡後、事情聴取で100万円のお手当が結婚の理由の一つと話しています。離婚されたら、カネがもらえなくなる。野崎さんが愛犬、イブに全財産を相続させると言っていたのは、元社員たちが証言している。財産を手にできるのは、野崎さんかイブかとなる。野崎さんが殺害される前に、イブが急死、次に野崎さんが亡くなった。動機はカネでしょう。和歌山カレー事件と共通点が多いのは間違いない。あの時は夏祭りで、多数の人が現場に出入りしていた。しかし、今回は現場にいたのが、須藤容疑者と家政婦さんのみで捜査はより慎重にならねばなりません」(前出の捜査関係者)

 野崎さんは遺言書を残し、遺産は和歌山県田辺市に寄付する意向を示していた。その遺言に従って田辺市が野崎さんの預金や不動産などを算定した「故野崎幸助氏による遺贈に関する報告書」という内部文書によると、遺産総額は約13億5千万円だった。

 報告書によると、須藤容疑者が野崎さんの死後、弁護士を通じて民法で規定されている相続財産の配分を受ける意向を田辺市に示していた、と記されている。

 報告書には、野崎さんの現金の遺産についてこのような記載がある。

<現金については、配偶者側からの申出額が300万8千円であった。(中略)その後、市独自の調査により、配偶者側から513万2千円であると申告されている。(中略)野崎氏の死後における現金化の管理は相続管理人においても現物を確認することができている状態にない。金額が流動的であるため、相続財産として価値は無きものと考えるべき>

 つまり、須藤容疑者側の現金管理がずさんで当てにならないと指摘しているのだ。

 そして、相続財産管理人が選任された理由を<野崎氏の相続財産が配偶者によって費消されるおそれが高いと考えた>とも記されてあった。
 須藤容疑者が遺産を使ってしまう懸念が示されているのだ。

「カレー事件でも林死刑囚は周辺者に保険金をかけていた。林死刑囚が自白しないことを前提で捜査していた。今回も事件から3年と長く捜査している。須藤容疑者が否認したままでも起訴できるだけの捜査は尽くしている」(前出の捜査関係者)
 
 覚せい剤殺人のトリックの全貌は明らかになるのか。
 (今西憲之)