横浜市戸塚区のアパートからペットとして飼われていた巨大ヘビが逃げ出し、神奈川県警などが捜索しているがいまだ見つかっておらず、周辺住民は恐怖の中での生活を強いられている。飼い主は法的責任を問われないのか、住民たちは飼い主に慰謝料などを請求できるのか。専門家に見解を聞いた。



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 逃げているのは、20代の男性が飼育していた体長3.5メートル、体重13キロのアミメニシキヘビ。人に危害を加える恐れのある「特定動物」に指定されている。毒は持っていないという。
 
 男性は行政側の許可を得て、2017年からこのヘビを飼育。だが、報道によると、逃走の際は許可を得たガラス製のケージでなく、別の木製ケージにヘビを入れていた。このケージの変更については、許可を得ていなかったという。

 今回の騒動を受け、日本蛇族学術研究所が運営するジャパン・スネークセンター(群馬県太田市)がツイッターでアミメニシキヘビの動画を公開し、その性質を解説している。

■自分の頭より大きな獲物飲み込む

 それによると、アミメニシキヘビは成長すると9メートルほどになる世界最長のヘビで、大型の個体は牛や人を飲みこんだという報告もあるという。基本は夜行性だが、昼間でも活動していることがある。性格は比較的おとなしいものの、驚いたり嫌なことをされ続けると攻撃態勢に入り、近づくと攻撃してくるという。自分の頭より大きな獲物を飲み込むことができるため、今回逃げている3.5メートルのサイズでも、乳幼児や小型・中型の犬や猫は注意が必要としている。

 実際に国内でも人身事故の例はある。

 2012年に茨城県牛久市のペット飼育場で60代の男性が死んでいるのが見つかり、現場の状況から飼育していた6.5メートルのアミメニシキヘビに襲われた可能性が高いと報じられた。

 アパートの周辺住民には不安が広がり、近隣の小学校は児童を集団で登下校させるなど対応に追われている。うっかりミスではすまされない事態だが、飼い主の法的責任はどうなるのか。

 ペットのトラブルに関する裁判に数多く携わってきた渡邉アーク総合法律事務所の渡邉正昭弁護士によると、

「逃げたペットが人を襲って死なせてしまったりケガをさせたら、当然ながら飼い主に民事上の賠償責任が生じますし、刑事上でも過失を問われることがあります。飼い犬が逃げ出して人を死傷させたという事案は数多くありますが、その過去の判例を見ると、重過失致死傷罪に問われたケースが散見されます」

 普通の「過失致死傷罪」は懲役刑の定めがないが、重過失致死傷罪は「5年以下の懲役か禁固、または50万円以下の罰金」と定められており、より罪は重い。つまり、うっかり事故ではなく飼い主に「重大な過失」があったと認定されたケースが多いということだ。

 ペットが逃げたというだけで、具体的な被害や損害がなければ刑事、民事ともに飼い主に責任は生じないという。ただ、今回のアミメニシキヘビは人に危害を与える恐れがある「特定動物」に当たり、さらに飼い主が許可を得ずに木製のケージに変更していたことから、ちょっと事情が違うようだ。

「特定動物とは簡単に言えば『危険な動物』ですので、動物愛護法で飼育について細かなルールが定められています。飼育施設を変更する際は都道府県知事の許可が必要で、違反者は『6カ月以下の懲役か100万円以下の罰金』となります。また、飼育施設が安全基準を満たさないと判断されれば、飼育許可が取り消されます。今回のケースで言えば、木製ケージへの変更の許可を得ていないこと。さらに、ヘビの大きさからすれば木製のケージでは安全ではないと考えられることから、刑事罰に加え、飼育許可の取り消しを受ける可能性もあると思います」(渡邉弁護士)

■住民による飼い主への慰謝料は…

 一方、恐怖の中で暮らしている住民側は、飼い主に対し慰謝料などを求めることは可能なのか。渡邉弁護士は、

「近所に住んでいる方はとても不安は大きいと思いますし、外に出るのが怖いという方もいるでしょう。ただ、ヘビの逃走によって『行動が規制』されてしまったとしても、飼い主に対して慰謝料などの損害賠償請求ができるかは検討が必要です。行動規制が事実上のものか、法令などで規制されたものか。住民たちの『受忍限度』を超えているものなのか、行動が規制されることが法的保護に値するか、などの問題を検討しなければなりません。慰謝料請求が当然にできるということにはならないと思います」

 と慎重な見方を示す。

 そもそも、こんなに大きなヘビを民家で飼育できることに驚いた人も多いだろう。渡邉弁護士は「飼っているヘビが逃げたという事案は意外と多いんです」と指摘したうえで、こう指南する。

「動物愛護法の規定では、行政側は飼い主宅への立ち入りなど、とても強い権限を持っています。もし近所に危険な動物を飼っている人がいて不安を感じたら、行政側に連絡して、監督権限を行使してもらった方が良いと思います。ルールを守って飼っているかまでは近所の人は把握できませんから、行政とつながることが一番だと考えます」

 一刻も早い発見を祈るばかりである。(AERA dot.編集部・國府田英之)