出入国管理法(入管法)改正案を事実上廃案に追い込んだのは「Z世代」だ。この法案は外国人への人権上の問題が指摘されていた。若者たちはなぜ憤ったのか。AERA 2021年7月19日号から。



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 4月15日夜。国会前で一人の若者が、集まった450人近い群衆に向かって訴えた。

「現に存在している一人の人間に、『人間として扱ってほしい』と言わせてしまう社会であっていいはずがない」

 福井周(しゅう)さん(23)。入管法改正案の成立反対を訴えた、緊急アクション「国会前スタンディング&リレートーク」の呼びかけ人の一人だ。声を上げやすい社会を目指して活動する一般社団法人「Voice Up Japan(ボイスアップジャパン)」に所属する。

 国会前スピーチは、一時的に入管の収容を解かれ「仮放免」になった人から聞いた、印象に残ったエピソードを盛り込んだ。

「仮放免になった人は、『自分たちを人間として扱ってほしい』とすごく訴えていました。アパートを借りるとき、『ペット可』と一緒に『外国人可』と書かれているが自分たちはペットと同じなのか、人間として扱ってほしいと。その思いを伝えたかった」

■コロナ禍で困る人たち

 中学生の頃から社会問題に関心を持つ。路上生活者への炊き出しボランティアをし、高校では反ヘイトスピーチ運動に参加。国際基督教大学に入学すると、共謀罪などをテーマに政治への疑問を議論する市民団体「未来のための公共」の立ち上げにも加わった。

 昨年3月に大学を卒業。入管問題に関心が向いたのは昨年末。東京・池袋の炊き出しに参加しているとき、他の炊き出し現場に仮放免の人たちが来ていると聞いたのがきっかけだった。仮放免中の人は在留資格がないため仕事に就けず、生活に困り、健康保険にも入れないので病気になっても病院にいけない。

 コロナ禍で見捨てられている人たちがいる、何とかしなければと思っていると、入管絡みの問題が立て続けに起きた。今年2月中旬、「入管法改正案」が閣議決定された。改正案は、難民申請の回数を制限するなど人権への配慮を欠くと指摘された。さらに3月6日、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が収容先の名古屋入管で亡くなった。

 改正案が成立すれば、排外主義が強まり差別が一層深刻になる──。仲間たちに声をかけ、SNSなどで緊急アクションを呼びかけた。国会前には若者や家族連れが多く集まり、国会議員も駆けつけた。

 翌16日に法案が衆議院法務委員会で審議入りした後も、仲間たちと国会前で抗議の座り込みを続けた。5月18日、政府は今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。福井さんは言う。

「様々な世代が声を出すことが大事。だから、僕は若いからこそ、これから先も、自分たちの社会を自分たちで考えるんだという声を上げていきたい」

 入管法改正案が廃案になったのは、俳優の小泉今日子さん(55)ら著名人が反対の声を上げたことが大きな要因となった。だが、廃案の原動力になったのは、間違いなく20歳前後の「Z世代」と言える。

 早稲田大学4年の蛭田ヤマダ理紗さん(22)もその一人だ。母親はブラジル出身。蛭田さんは、外国人の人権に対する日本の冷淡さをずっと肌で感じていた。入管の収容施設が劣悪な環境下にあることも、日本は難民認定率が極端に低いことも知っていた。そんなとき、入管法改正案が成立しようとしていると知り、「おかしい」と思った。

「そもそも現行の入管法が差別的であるにもかかわらず、それをさらに厳しくして外国人を取り締まろうとしている。しかもなぜ、コロナ禍でやらないといけないのかとすごく感じました」

■当事者の代わりに発言

「Voice Up Japan早稲田大学支部」の共同代表でもある。冒頭で紹介した福井さんたちと声を上げることにした。国会前でスピーチをし、座り込みにも参加した。

 入管の問題は、政治的な問題だけに収容された経験のある人は声を上げにくい。発言すると、再び収容されるかもしれないと危機感を覚えるからだ。だったら、声を上げられる「特権」を持つ側の自分たちが当事者の代弁をすることが大事だと話す。

「持っている特権をマイノリティー(少数派)の人を差別するのに使う人もいれば、助けるために使う人もいます。私は、自分が持っている特権をマイノリティーの人を助けるために使いたい」

 思いの根底にあるのは、マイノリティーを差別する社会への怒りだ。入管の収容施設にいる人はマイノリティーの存在。しかし、今はマジョリティー(多数派)の人も、いつマイノリティーになるかわからない。自分も今は日本にいるから「日本人」でいられるが、一歩国外に出たら「外国人」。それなのに、マイノリティーというだけで差別する。そこに激しい憤りを覚えるという。

 改正案は廃案となったが、入管問題は終わっていない、ウィシュマさんが亡くなった原因をはじめ、解決していないことのほうが多いくらいだと言う。

「これからも『ノー』の声を上げていきたいと思っています」

 怒りと憤り。改正案に反対の声を上げたZ世代に共通するのは、この思いだ。

■人権排除の社会に声

 グローバル化する世界で、Z世代は、外国人は遠い存在ではなく自分たちと同じ存在という感覚を当たり前のように持ってきた。だから、人と人の間に線を引き、向こう側にいる人の人権を排除する社会に声を上げた。

「命さえ奪われてしまうひどいことが、私が生活している日本で起きています。そこから目を背けてはいけないと思っています」

 そう話すのは、愛知県立大学3年の千種(ちくさ)朋恵さん(20)。亡くなったウィシュマさんが収容されていた、名古屋入管への面会活動などを続ける。

 入管問題に目が向いたのは大学1年生のとき。東海地方を中心に活動する市民団体「外国人労働者・難民と共に歩む会(START)」が大学内で企画した「難民の話を聞く会」に参加した。それまで入管のことは何も知らなかった。だが、収容者の処遇はひどく、施設外の病院に連れていかれるときは手錠と腰縄を付けられるなどと聞き、憤りを覚えた。

「日本社会にこんな問題があったのかと思って」

 STARTに加わり、本部運営委員として活動する。

 週に1、2回、名古屋入管で仲間と一緒に収容者と面会を重ねる。ウィシュマさんが亡くなった後も、収容された人の環境は変わらない。1年以上収容され、精神を病んで寝たきりの状態で、「死にそう」と訴える収容者もいるという。

■外国人の問題ではない

 入管問題は外国人の問題として捉えるのではなく、日本社会で起きている問題として捉えなければいけない、と力を込める。

 入管問題に取り組む中で、日本人にも搾取され抑圧される人たちがいると知った。コロナ禍で感染のリスクがありながら、労働に見合った給与をもらえないでいる人たちのことだ。理不尽な差別を受けているという点では、入管の問題とつながっていると感じると話す。

 卒業後の進路は決めていない。だが、どんな仕事に就いても、差別され、抑圧される人の立場に立った活動をしたいという。

「少しでも自分が力になれることをやりたい。誰もが安心して生きられる、差別のない社会にしたい。それが私の望みです」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2021年7月19日号