デルタ株による感染拡大はピークを越えつつあるが、東京都では9月10日現在で、新型コロナウイルスの新規感染者は1242人、死者15人、現在入院している重症患者は243人、自宅療養者は1万1千人以上と依然として多い。救急搬送が困難な状況も続いている。そんな中、医療ひっ迫を訴える東京都医師会、病院協会の幹部の病院で、補助金を受けながらも病床使用率が20%を切る病院もあることが、AERAdot.が厚労省関係者から入手した資料でわかった。

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 医療ひっ迫の危機が指摘されている中、東京都医師会の尾崎治夫会長は「臨時医療施設を、ぜひいくつか作っていただきたい」などとたびたび語っている。こうした要望を受けて、東京都では野戦病院(臨時医療施設)の設置が進んでいる。旧こどもの城で設置されたほか、旧築地市場の跡地や味の素スタジアム内でも準備が進む。

 他方で、東京都は6583床のコロナ患者用の病床を確保しているというが、実際に使われているのは、3754床にとどまっている。2829床が「幽霊病床」とされる。

 民間病院と言えども、コロナ患者を受け入れる責任はある。厚労省が、新たに病床を確保した病院には1床につき最大1950万円の補助金を出しているほか、空床でも1床につき1日7万1千円の補助金なども出しているからだ。

 田村憲久厚生労働大臣と小池百合子東京都知事は、こうした実態を問題視。コロナ患者を最大限受け入れることを要請し、正当な理由なく要請に応じず、勧告にも従わない場合は名前を公表する姿勢を見せている。しかし、厚労省関係者は「実は医師会が病院名の公表には執拗に反対している。その結果、コロナ患者の受け入れが進んでいない」という。

 AERAdot.では、東京都医師会会員の病院や病院協会に所属する病院のコロナ患者用の病床数と実際の入院患者数、病床使用率のデータを、厚労省関係者から独自に入手した。

 リストには都内の37病院の「極秘」とされる実態が記されていた。コロナ患者用の病床は614床、そのうち入院患者数は268人。病床使用率は44%にとどまった(数字は9月6日時点)。

 さらに東京都医師会や病院協会の幹部でもコロナ患者を受け入れていない実態もわかった。資料によると、A病院ではコロナ患者用の病床を16床確保しているが、コロナの入院患者は3人、病床使用率は19%だった。B病院では29床のうち8人、28%、C病院では43病床のうち16人、37%、D病院では50床のうち28人、56%、E病院では52床のうち34人、65%、F病院は22床のうち15人、68%だった。

 厚労省関係者はこう語る。

「東京都医師会の尾崎会長は『野戦病院を作れ、そうすれば協力する』といっています。既に臨時の医療施設は急 ピッチで開設されています。尾崎会長の発言は裏を返せば、『ハコを作らなければ、協力しない』ともとれ、おかしな話です。空床のまま補助金だけが入っている状況がある。医療崩壊を叫ぶのであれば、先ずは自分たちの足元の医療機関できちんとコロナ患者を受け入れさせるのが先決ではないでしょうか」

 なぜコロナ病床を空けたままにしているのか、補助金は返還する予定はあるか、東京都医師会幹部がトップを務める各病院に見解を質した。

 A、B、C、E病院からは「多忙のため対応できない」などと取材拒否された。

 D病院は「事実誤認がある」として「6日時点の入院患者数はコロナ陽性26人、疑似症を含めると14人、合計40人、病床利用率80%となります」などと回答してきた。

 F病院はコロナ患者の受け入れ数については「6日の継続入院者数は34名」と認めた上で、「この継続入院患者数は、当日の入退院患者を含んでいませんので、実際に利用した人数より低くなります」と回答した。

 コロナ患者を受け入れていない理由について、下記の回答が来た。

「9月になり比較的短期間で入院患者は減少しておりますが、8月第4週ごろはピークにあり、8月25日には47名の入院患者(90%の稼働)がありました。病床の利用状況は感染状況とともに細かく変動しております。この時期には人工呼吸器が外れたばかりの不安定な患者が多く、現場の負担は高まっておりました。状況が急に悪化する症例に対応する場合は入院応需ができなくなることもありました」

「当院は東京都の計画では軽症から中等症に対応するべき病院群に分類されております。病院は200床に満たない施設でマンパワーに限りがあり少人数のローテーションで対応しておりますので、人工呼吸器が必要な重症患者が1名いるだけでも、途端に病棟管理への影響が大きくなります。重症患者のすべてを高次施設で対応することは難しい状況ですので、当院での治療が可能な限り人工呼吸器を用いるような症例にも対応の努力を続けて参りました。9月になっても人工呼吸器を用いる重症患者は4例に及びます」

「また当院では少数にとどまってはおりますが、スタッフの感染者数や濃厚接触者による人員減少の影響は大きいと思われます。病床利用率も指標の一つですが、感染状況を鋭敏に反映しておりますし、患者重症度や、人員数など様々な不測の要素があり、日々変動しています」

「なお、病床利用についてですが、多床室で男女混合はできない、重症度によって利用できる病床が限られる、清掃消毒などにより使用不能な時間がある、など様々な避けられない理由で一定の病床が利用できなくなるため、8―9割以上のベッドが常時稼働することは現実的ではありません。ベッド稼働が9割に達した今回の8月後半は非常に厳しい状況であったと考えられます。病床利用率だけで、行われている医療の状況を判断するのではなく、多角的な見方を要するように思います」

 補助金の返還などを考えているかの質問については、「不適切な補助金は返還します」と回答した。

 コロナ患者を受け入れていない病院に対して、東京都医師会はどのような見解なのか。尾崎治夫会長に「使われていない病床が約2千床あること」、「空床のまま医師会構成員の医療機関に補助金が入ること」の見解を尋ねた。(尾崎会長の病院はリストに記載されていない)。

 すると、「(空床について)東京都からデータをもらっていないのでわからない」、「医師会構成員という言葉がわからないので、回答は控えたい」と広報担当を通じて回答が来た。

 補助金を受けながらも、患者を受け入れない状況について、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は「厚労省のもともとの制度設計に問題がある」と指摘する。厚労省は補助金給付の要件に、「コロナ患者の受け入れ」を入れていない。そのため実際に患者を受け入れていなくても補助金が入る仕組みになっているという。

「通常の補助金であれば、患者の受け入れなどの実績があって、お金を出す形になります。しかし、厚労省がコロナ患者の受け入れ体制ができていないという批判を受けて病床確保の数だけを追求した結果、患者を受け入れなくても補助金を出す制度になった。その結果、実際には稼働できない病床ができた。民間病院はギリギリの医者、看護師しか持っていないから限界があります。本来であれば、国立病院や、尾身茂氏が理事長を務める、独立行政法人のJCHO(地域医療機能推進機構)の病院が患者を受け入れる話ですが、そこも受け入れに消極的で補助金だけを受け取る状況になっている。そんな中、民間病院で積極的に受け入れるなんて話になるはずがありません」

 医療がひっ迫する中、未だに1万1千人以上いる自宅療養者を置き去りにするようなことがあってはならない。

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)