世界が核戦争の危機にさらされた「キューバ危機」に際し、戦争回避に決定的な役割を果たしたのが、国に背いた軍人と普通のセールスマンだったという史実をサスペンスフルに描いた映画「クーリエ:最高機密の運び屋」。監督は舞台演出家のドミニク・クック。

 1960年代初頭、米ソの核武装競争が激化。世界中の人々は核戦争の脅威に怯えていた。そんな時、CIAとMI6がひとりのイギリス人セールスマンに目を付けた。その男グレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)はスパイの経験など一切ないにもかかわらず、GRU(ソ連軍参謀本部情報総局)のペンコフスキー(メラーブ・ニニッゼ)との接触を依頼される。

 その内容とは、表向きは販路拡大と称してモスクワに赴き、ペンコフスキーから託されたソ連の軍事機密を西側に持ち帰ること。あまりに危険な任務に最初は拒否するグレヴィルだったが、世界平和のためと説得され、やむなくモスクワ往復を引き受ける。しかし歴史が大きく動いて──。

本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)

■渡辺祥子(映画評論家)

評価:★★★★

英国素人スパイと信念があるソ連の愛国スパイの間に育つ友情がスリリング。キューバ危機問題の表に出なかった事実が描かれているのが興味深く、英国俳優カンバーバッチの異様な痩せっぷりが示す彼の役者根性が凄い。

■大場正明(映画評論家)

評価:★★★

冷戦下の張り詰めた空気を醸し出す抑制された演出とカンバーバッチの鬼気迫る演技。友情で結ばれた男たちの過酷な運命を描く一方で、架空のCIA女性捜査官など、女性の立場に光をあてる現代的な視点も盛り込まれている。

■LiLiCo(映画コメンテーター)

評価:★★★

ずっと緊張、のちに切なさ。あんなことがあったら怒りっぽくも、性欲で精神を整えようとも、そしてもちろん吐きたくもなります。でも結局は家族です。信頼する奥様の存在は大きい。しかし実話だなんて、胸が苦しい。

■わたなべりんたろう(映画ライター)

評価:★★★★

戦争に翻弄されて数奇な人生を送った男の本当の話を、シェイクスピアの舞台演出を手掛けている監督が手堅く仕上げている。プロダクションデザインと俳優陣が素晴らしく、カンバーバッチが実力を遺憾なく発揮して傑出。

(構成/長沢明[+code])

※週刊朝日  2021年9月24日号