「事件が起きてから6年が過ぎました」

 21日、午前11時過ぎ。東京高裁101号法廷。ジャーナリストの伊藤詩織さん(32)は、意見陳述を始めた。

 2015年4月、伊藤さんは就職相談のため元TBS記者の山口敬之氏(55)と都内で食事をした。その際、意識を失い望まない性行為を強要されたとした。17年9月、「望まない性行為で精神的苦痛を受けた」として、1100万円の慰謝料など損害賠償を求め民事訴訟に踏み切った。それと前後して、レイプ被害を実名で告発した。

 裁判からの4年間、伊藤さんは裁判を通し訴えたかったことがあったという。まず、自分の身に起きた出来事に対して司法の適切な判決が下されること。そして、自分と同じような性被害と、性被害バッシングという二次被害が決して許されるものではないというメッセージが広がることで、新たな被害者が泣き寝入りしてなくていい社会になることだ。 

 売名、被害者ビジネス、ハニートラップ……。実名でレイプ被害を告発する伊藤さんは、様々な誹謗中傷が浴びさせられ、「セカンドレイプ」の被害にもあった。それによるフラッシュバックやうつ状態などのPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ、何度も死を考えた。今も自分でネットを閲覧するのが難しい状態だという。

 伊藤さんは声を震わせ言った。 

「被害者が司法できちんと守られること、そしてこれ以上『心の被害者』という勝手なステレオタイプによって、誰かをおとしめるような出来事が起きないことを願っています」

 裁判には山口氏も出廷した。

 グレーのスーツにネクタイを締め、眼鏡をかけ黒のマスク。山口氏は証言台に立つと、ありもしないレイプ被害を作り出され、取り返しのつかない苦しみを味わっていると訴え、 

「あなたのウソと思い込みで、私は社会的に殺されました」「私がレイプドラックをもったという証拠を出してください」

 などと主張した。 

 控訴審終了後、取材に応じた伊藤さんは、山口氏の主張に、「ショックが大きすぎるので、どう感じていいのかわからない」

 と話し、涙ながらにこう言った。 

「この場に立ってお話をするのができるかわからなかった。数分間深呼吸してこの場に立っています」

 伊藤さんの代理人弁護士によれば、今日の控訴審では新たな証拠は特になく、争点は一審と同様、性行為の同意があったかどうかなどの事実関係になるという。 

 最後に伊藤さんはこう言った。

「裁判でどのような結果が出るのか、今後の司法のあり方をどう見るのかというところに、みなさんには目を向けていただきたいと思っています」 

 19年12月18日の一審判決は、山口氏について「伊藤氏が電車で帰る意思を示したのに近くの駅に寄らず、タクシー運転手に指示してホテルに向かった」と指摘。「性行為に合意はなく、伊藤氏が意識を回復して拒絶した後も体を押さえつけて続けた」と不法行為を認めた。山口氏は判決を不服として控訴していた。

 控訴審判決は、来年1月25日に言い渡される。(編集部・野村昌二)

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