今年4月に95歳で亡くなった脚本家の橋田壽賀子さんとの歩みを、プロデューサーの石井ふく子さん(95)が一冊にまとめた。それが『家族のようなあなたへ─橋田壽賀子さんと歩んだ60年』(世界文化社 1485円・税込み)だ。亡くなって半年になるが、

「やっぱりつらいわね。60年の付き合いなの。私の部屋に橋田さんと私のツーショットの写真が飾ってありますけど、おはよう、何か言って!と話しかけても、答えないのよ」

 橋田さんの好物のスイカが届いたから送ってあげようと思ったところで、「ああ、もういないのか」と気づく。そんなときがいちばんつらい。

 初めて会った30代の頃から、橋田さんは殺人と不倫は題材にしないと決めていた。石井さんも同意見だった。そこからコンビを組み、言いたいことを言い合い、「おんなの家」「女たちの忠臣蔵」など、数多くのドラマと舞台を作り続けてきた。

 原稿は必ず熱海の橋田さんの家に取りに行った。

「他の人には渡してくれないんですよ。雨が降っても、雪が降っても、私が東京から新幹線で行くんです。『ただいま』と言って家に入っていくと、橋田さんが『おかえんなさい』ってね」

 書き上げた原稿の上に数珠がのっている。石井さんは橋田さんの亡き夫の仏壇を拝んでから橋田さんの前で原稿を読み、気になるところがあれば話し合った。

「いちどだけ台本のことで、電話で大喧嘩したんです。聞いていた私の母が後から橋田さんに電話して、『娘が失礼なことを言ってすみません』とあやまったそうです」

 そんな2人が60代半ばになって手掛けたのが「渡る世間は鬼ばかり」だった。1年の予定で1990年に始まったこのドラマは2019年まで30年近く続いた。橋田さんの構成力のたまものだと石井さんは見る。

 実は次回作についても橋田さんと構想を練っていた。新型コロナウイルスが登場し、ラストシーンでは5人姉妹がそろった法事の席で、泉ピン子さん演じる五月が挨拶をする。自分は実家を飛び出して独りぼっちだと思っていたけど、こんな姉妹がいてくれた、みんなありがとう、というセリフでエンディングを迎える。

「それが橋田さん自身の気持ちだったんですよ。ご主人を亡くした橋田さんは一人でしたけど、俳優、スタッフを含めてみんなと一緒に仕事をしてきたから、自分は一人じゃなかったんだと。私も同じ気持ちです」

 近年は2人が得意としたホームドラマより、医療、警察ものが目立つ。

「人を殺さなくても家庭にはサスペンスがいっぱいあるというのが橋田さんと私の持論。私もまたホームドラマを作っていきたいと思っています」

 亡くなるひと月前、橋田さんは一つ年下の石井さんに「あんたは妹なんだから姉の言うことは聞くもんだ」と話した。「ふっこさん」「すがこさん」と呼び合った2人の軌跡は、家族とは何かも考えさせてくれる。(仲宇佐ゆり)

※週刊朝日  2021年10月1日号