小説家・長薗安浩氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『養老先生、病院へ行く』(養老孟司、中川恵一著、エクスナレッジ 1540円・税込み)を取り上げる。

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 かつて東大医学部教授だった養老孟司は病院嫌いで知られ、本人も「医療界の変人」と自称している。統計が支配する現代の医療システムに組みこまれるのを避けるため、健康診断も受けず、自分の「身体の声」に従って80歳過ぎまで生きてきた。

 そんな養老が昨年6月、26年ぶりに古巣の東大病院を受診した。1年間で体重が約15キロ減り、不定愁訴の日々が続いた末に、旧知の医師、中川恵一を頼ったのだ。

 検査の結果、体重減少の原因は持病の糖尿病だとわかったが、心電図の解析から、痛みのない心筋梗塞を起こしていると判明。そのまま心臓カテーテル治療を受けて2週間入院し、運よく死なずにすんだ。

『養老先生、病院へ行く』はこのときの顛末を中心に、医療との関わり方、死との向き合い方などについて、両者がそれぞれ持論を展開して編まれている。最終章には漫画家のヤマザキマリとの鼎談もあり、養老の病院嫌いに対する彼女の問いをきっかけに、理想とする医療のあり方や患者の態度へと話は進む。中でも、養老が、昨年末に18歳で逝った愛猫まるの死に言及している第3章は、私自身の体験とも重なって考えさせられた。

 ペットとはいえ、その最期は痛いほどの悲しみを伴う<二人称の死>だから、病院嫌いの養老も2日に1回まるを動物病院へ連れて行き、胸水を抜いていたらしい。無理な延命を求めているのではと自責の念を抱えつつ。そして養老は、自分が臨床医になれなかった理由をあらためて自問し、患者との距離をうまくとれる自信がなかったから、と分析する。

 思索と実用、どちらの入門書にもなりえる一冊である。

※週刊朝日  2021年10月1日号