ジャーナリストの田原総一朗氏は、先日亡くなった瀬戸内寂聴さんとセックスについて記す。

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 作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが11月9日に99歳で死去された。

 瀬戸内さんは女性の生と性を描いた小説で人気を集め、400冊以上を出版し、平和や反原発を訴えるなど、社会活動にも取り組み、そして、51歳で出家した。

 瀬戸内さんといえば、大正時代のアナキスト、伊藤野枝を描いた『美は乱調にあり』が有名だが、彼女自身、セックスについては反常識的で、たとえば、作家の井上光晴氏と不倫を続けていたが、井上氏の娘である荒野氏との対談で、井上氏との関係について次のように語っている。

「私は井上さんとの関係を不倫なんて思ってないの。井上さんだって思ってなかった。今でも悪いとは思ってない。たまたま奥さんがいたというだけ。好きになったらそんなこと関係ない。雷が落ちてくるようなものだからね」

 ここまで自由に生き、しかもそのことを堂々と公言し続けた女性は他にいない。

 実は、私は瀬戸内さんが出家されて数年後、瀬戸内さんを訪ねてインタビューをしたことがある。

「あなたは多くの小説を書いてこられた。私も10本近く読ませていただきました。どの作品も素晴らしく、多くの読者がそう捉えているはずです。だけど、こんなことを聞くのは申し訳ありませんが、瀬戸内さんは直木賞を取っていらっしゃらない。日本では、直木賞や芥川賞を取ることが一流小説家の証し、とする空気があり、一流と言われる小説家の多くは直木賞を取っています。なぜ、直木賞を取っていらっしゃらないのですか」

 私は、怒られるのではないか、と恐れながらこの質問をした。

 すると、瀬戸内さんは全く不愉快そうな顔つきをせず、笑って、穏やかな口調で答えられた。

「それは、私があまりにも男性にもてるので、直木賞の審査員の人たちが私にやきもちをやいたのではないですか」

 通常の女性ならば、何様だと思っているのか、と批判されることを恐れて、このようなことは絶対に言わない。だが、瀬戸内さんが言うと、誰もがそのとおりなのだろう、と納得してしまう。

 なぜなのか。

 実は、瀬戸内さんが小説を書き始めた当時、瀬戸内さんのあまりにも生々しいセックス描写の小説を、多くの批評家たちは情痴小説、ポルノ小説だと決めつけた。

 それでも瀬戸内さんは、いささかもひるまずに生々しいセックス描写の小説を書き続け、本当に優れた小説を好む読者をどんどん獲得し、批評家たちの評価は変わっていった。瀬戸内さんは批評家たちの認識を変えてしまったわけだ。

 私は、瀬戸内さんに「なぜ出家をしたのですか」と問うた。

「実は、セックスをやり過ぎたので、セックスをやめようと決意して、そのために出家したのです」

「それで、出家してセックスはやめましたか」

「それがやめられなくて、セックスをしては阿弥陀様に謝罪しているのです」

 瀬戸内さんは、極めて真面目に答えた。

 セックスをしても俗世に戻らず、阿弥陀如来に謝罪する、つまりセックスはするが自由奔放ではなく、神を恐れる精神を持っている。私は瀬戸内さんを人間として再認識した思いであった。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

※週刊朝日  2021年12月3日号