首都圏で家を買う夫婦のリアルな事例や最近の不動産事情を探った連載「それでも夫婦は東京に家を買う」。今回のテーマはパワーカップルとタワマン。首都圏の新築マンションの価格は高騰しているものの、会社員夫婦の購買意欲は旺盛だ。超低金利などの条件がそれを可能にしている。だが、リスクはないのか。専門家にきいた。

>>【前編:都心タワマン購入パワーカップルの意外な生活感 新築1億円を共働き夫婦が「買える」理由】から続く

*     *  *
バブル後の景気低迷から、「超低金利時代」と言われて久しい日本。だが、大手デベロッパー出身の不動産コンサルタント、長谷川高さん(長谷川不動産経済社代表)は「超低金利が当たり前という時代を生きてきた世代が、リスクをよく考えずに多額のローンを組んでいる」と警鐘を鳴らす。

「今は、夫婦両輪の“大車輪”のごとく、多額のペアローンを組む例が珍しくない。今は良くても、病気や事故、子育てや転職などで、どちらかの収入が減ったり途絶えたりするリスクは当然ある。借り入れ金額を増やしてしまうことで、教育費などの支出がかさみ、ローンの支払いに窮するケースもよく見られています。借りられる金額が、必ずしも返せる金額ではないということを考えるべき」

 高額な借入金である住宅ローンは、組み方を失敗すると、自らの人生を不幸にしてしまうほどのものとも言える。超低金利時代とは言え、固定金利にするか変動金利にするかも、リスクの面から見ると大きな差がある。超長期固定金利の住宅ローン金利が低い今は、原則的には「全期間固定金利(超長期)」でローンを組むことを考えた方がいいそうだ。

「不動産会社の営業マンは、少しでも月々の支払額を安く見せたいので、『ほとんどの方は変動金利で借りています』などと、変動金利を奨めてくることも多い。ですが金利上昇リスクのある変動金利で借りることは、大きなリスクを背負うことになる。『金利が安いのは当たり前』だと思い込むと、こんなはずじゃなかったということになりかねません」(長谷川さん)

 また人生100年時代といえども、定年後も長く働くことを前提にローンを組むこともリスクが高い。会社員で高収入である仕事は、一般的に多忙であることが多い。忙しく働き続けることで、体調を崩すことがないとは言い切れない。

「10年ほど前までは、60歳以降は働かない前提で考える人が多かったのが、ここ最近は70歳まで働くことを見据えてローンを考える人が増えている」とは、首都圏を中心に住宅購入における相談実績も多いファイナンシャルプランナーの飯田敏さん(FPフローリスト)。40代半ば〜後半の住宅購入も増加傾向にある中、「定年後もローンを払い続けるシナリオにしかなり得ないが、本当に大丈夫だろうか」といった相談も増えているという。

「危機管理という視点では、夫婦共働きであっても、『どちらかが働けなくなったら』という視点のもとでローンを組んだ方が良い。『70歳まで健康で働けるはず』と、自分が病気をしない前提で考えることにもリスクがあります。また総支払額だけを見て、『住宅ローンは短めに組んだ方が有利』と、最初から短期間のローンを組むことは危険。長期の住宅ローンを組み、繰り上げ返済をうまく利用して、結果的に短期間で完済することはできても、一旦短期で組んだ住宅ローンを長期にすることは原則としてできません」(飯田さん)

 新築マンション価格が高騰し、高止まりが続く中、「今は新築マンションを買うことは避けた方が良い」という声もある。新築マンションの価格は、土地や建物などにデベロッパーの利益やプロモーション費用などを積み上げて価格を算出する原価法から導き出す「積算価格」によって決まる。一方、中古マンションは、主に物件周辺の取引事例から価格を算出するのが一般的だ。現在の新築マンション価格高騰の背景には、アベノミクスや日銀の金融緩和などの影響に加え、東日本大震災の復興や五輪開催に向けたインフラ整備のための人件費の上昇、資材の高騰による工事費や土地価格の上昇などの要因もある。不動産コンサルタントの後藤一仁さんは言う。

「物件の条件にもよりますが、一般的には今のような価格高騰の時期に新築マンションを買うと、将来売却する際に、価格が下落する可能性が高いと言わざるを得ません。一方で、ITバブル崩壊後の2002〜2004年や、リーマンショック後の2009年、東日本大震災後の2011〜2012年などは新築マンション価格が低くなりました。本来であれば、新築マンションは、このように価格が下がるタイミングで買う方が購入額を維持しやすいですし、場合によってはリセール時の値上がり益(キャピタルゲイン)も狙える」

 現に、1990年前後の不動産バブル期に高騰した価格で家を買い、30年ほど経った今、その物件を売ろうとしているケースでは、購入時の価格の3分の1〜半額以下になることも多いと言う。前出の長谷川さんも、こう続ける。

「私のところに相談に来られる60代前後の方も、『あの時あんなに高い金額で買ったのに、これっぽっちの金額でしか売れないなんて……』と肩を落とす人は多い。資産価値を見込んで買ったとしても、この先絶対に価値が下がらないとは誰にも言えません」

 さらに新築マンション価格の高騰の裏で、少しでも価格を抑えるための手段として、面積を狭くし、設備をチープ化している物件が数年前と比べて多く見られるのも、今の傾向だという。

「例えばスロップシンク(バルコニーなどに設置されている流し)やアルコープ(共用廊下から各住戸の玄関部分までの空間)など、数年前まではマンションの標準設備として比較的多く存在していたものが、今の新築マンションではなくなっているケースがよく見られます。“建物全体の顔”であるメインエントランスは、かなり豪華な仕様にしているものが多い一方で、専有部分はチープ化が進んでいる。この傾向から見ても、単に“新築であること”に惑わされず、しっかり物件を見極めることがより大事になってきています」(後藤さん)

 もちろん、個々の条件によっては資産価値を維持できる可能性の高い新築マンションもある。大切なのは、「このまま超低金利時代が続くはず」「資産価値が絶対に下がらないはず」「70歳まで働けるはず」などと、先々を楽観的に考え過ぎて動かないことだ。先行き不透明で不安定な時代、「住宅ぐらいは確かな資産価値であってほしい」と願う声も理解できる。だが、人生100年時代、いつ何が起こるか分からない。

 会社員でも億ション購入が夢じゃない時代。多額のローンを抱える前に、今一度リスクを想定したシミュレーションを練ってみてはどうだろう。(松岡かすみ)

>>【11月27日10時公開】中古マンション争奪戦「10年間、タダで住めたようなもの」世帯年収800万円夫婦も狙う物件とは