公開が目前に迫る「シン・ウルトラマン」は、どんな作品なのか。初代ウルトラマンのスタート直前に放送された「ウルトラマン前夜祭」に倣い、熱い「ウルトラマン愛」を持つ2人がその魅力に迫った。

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 2016年に公開され、同年の邦画実写映画1位を記録する大ヒットとなった「シン・ゴジラ」。その作り手を担った庵野秀明さんと樋口真嗣さんが世に送り出すのが、5月13日公開の映画「シン・ウルトラマン」だ。

 1966年に初回放送された初代「ウルトラマン」の誕生から56年。2022年の世界に新たに出現するウルトラマンの全容は、いまだ多くの謎に包まれている。

 すでに公開されている1本の予告と3本の特報、キービジュアルなどにより、「シン・ウルトラマン」の世界の輪郭が少しずつ見えてきている。その概要は、次のようなものだ。

●本作における怪獣は、<超自然発生巨大不明生物/禍威獣(カイジュウ)>と呼称される存在で、現時点ではネロンガ、ガボラの登場が確認できる。

●禍威獣の出現への対策チームとして、巨大不明生物による災害対策を主として設立された防災庁の専従組織、<禍威獣特設対策室>通称<禍特対(カトクタイ)>が設置されている。初代「ウルトラマン」に登場した「科特隊(科学特捜隊)」とは異なる組織のようで、肩書もキャップや隊員ではなく、班長、作戦立案担当官、分析官など。

●宇宙から来た<外星人>として、ザラブ、メフィラス(特報では人間体のみ登場、「外星人第0号」と書かれた名刺を持つ)が登場する。

●今回登場するウルトラマンや禍威獣たちは、すべてCGで描かれている。

●ウルトラマンのデザインは胸にカラータイマーがなく、“背びれ”のような隆起や目の覗き穴などはない。

●大迫力で放たれるスペシウム光線は、初代「ウルトラマン」の時代から数多くの作品で光線画を手がけた飯塚定雄さんによる手書きの光線を元にしている。

 現段階までに公開されているこれらの情報をもとに、ウルトラマンへの熱い思いを持つアニメ・特撮研究家の氷川竜介さんと映画評論家・クリエイティブディレクターの清水節さんに、今作で注目している点や、期待している点を聞いた。

 まず氷川さんは、禍特対の服装に着目する。斎藤工演じる作戦立案担当官・神永新二や長澤まさみ演じる分析官・浅見弘子といったメンバーは、戦闘服のようなユニホームではなく普通のスーツ姿なのだ。

「初代マンの科特隊のようにオレンジ色の制服を着て特殊な飛行機や兵器で戦う『怪獣退治の専門家』ではない、現実味のある存在であることがわかります。ウルトラマンと禍威獣以外はほぼ現実に近い世界だという描かれ方になるのではないでしょうか」

 こうしたリアルな世界観は、昭和の名作怪獣映画「サンダ対ガイラ」や、樋口真嗣監督が特技監督をつとめた「平成ガメラシリーズ」とも共通するものがあるという。

「現代社会にもし本当に巨大生物が現れたら、というテーマをリアリズムで突き詰めていく作風だと思います。庵野さん、樋口さんが手掛けた『シン・ゴジラ』もまさにそうでした。『シン・ウルトラマン』も、我々が暮らしているのとそう違わないような日本に『銀色の巨人』が現れたらという、知的シミュレーションとしての映画となっているのではないでしょうか」(氷川さん)

◆登場の4体からエンタメに期待

 一方の清水さんは今作の方向性をこう予測する。

「3.11後の日本が直面する問題を浮かび上がらせた社会派映画のような側面も持っていた『シン・ゴジラ』より、さらにエンターテインメント性を意識した作品、上質な娯楽アクションを目指しているような気がします」

 そう考える理由は、現時点までにわかっている、ネロンガ、ガボラ、ザラブ、メフィラスという禍威獣、外星人のセレクトだという。

 初代ウルトラマンでは、ネロンガは電気をエサとする透明怪獣、ガボラはウラン235を食べ、放射能熱線を放つ地底怪獣。ザラブとメフィラスはともに高い知能を持ち、策略を使って地球を侵略しようとした異星人だ。

「ウルトラマンといえば、『ジャミラ』や『ウー』の回のように、怪獣の存在そのものでアンチテーゼを投げかけるような社会性の強いエピソードもありました。一方、今回登場するネロンガやガボラは、電気、原子力という人類にとって発展の象徴のようなエネルギーへの脅威となる存在。ザラブとメフィラスは、単に力で征服しに来るのではなく、こちらの弱みにつけ込んだインテリジェントな戦略で挑んでくる存在です。どちらも、ウルトラマンという作品のエンターテインメントとしての特質を象徴するような正統派のセレクトだと感じます」(清水さん)

 清水さんはこれらの4体が登場することによる作品構造に期待する。

「テレビシリーズの『ウルトラマン』は、30分番組の前半で怪獣や宇宙人が現れ、番組後半にウルトラマンが登場してクライマックスを迎えるという構造です。それを2時間の映画に当てはめた場合、1時間半過ぎたころにウルトラマンが登場する、というわけにはいかないでしょう。おそらく、複数の相手が登場することで、そのつどウルトラマンに変身して戦っていくことになるのでは。そうすることで、オリジナル版にあった『構造』のようなものを守っているのではないかという気がしています」

 今作で大きく注目されている点の一つが、シン・ウルトラマンのデザイン。“背びれ”をはじめ、ウルトラマンの「象徴」のようなイメージのカラータイマーがないことも世間を驚かせた。実はこれ、初代ウルトラマンをデザインした芸術家・成田亨さんの絵画「真実と正義と美の化身」に描かれたウルトラマンの姿がコンセプトの原点になっているという。企画・脚本を務める庵野さんは「この美しさを何とか映像に出来ないか」という思いを持っていたといい、次のようなコメントを残している。

◆ゾフィーの言葉 意味するものは

「成田亨氏の目指した本来の姿を描く。現在のCGでしか描けない、成田氏が望んでいたテイストの再現を目指す事です」(映画の公式サイトから)

 氷川さんは「プロポーションや質感、成田さんが理想としたデザインを表現するため、これまでのCGの限界を超えたいという思いを込めたCGなのだと思います」と語る。

 清水さんは、自身の連載記事のため、成田さんの最晩年に何度も取材を行い、その後の交流を通して、遺稿集の編さんや、没後の企画展の手伝いなども行ってきた。清水さんが、ウルトラマンのデザインについてこう語る。

「成田さんは、『ウルトラマン』のメイン脚本家だった金城哲夫さんから、『いまだかつてないカッコいい宇宙人を作ってくれ』と依頼されたそうです。人間の持つ余分なディテールをそぎ落とし、シンプルにしていった結果、生まれたデザインです。根底にあるのはギリシャの哲学者プラトンの考え方。怪獣は混沌、カオスを意味する存在であるのに対し、ウルトラマンはプラトンが理想とした秩序、コスモスを象徴する存在。そこに生命感を込めたとおっしゃっていました」

 今回、新たに描き出されたウルトラマン像については、次のように感想を語る。

「人間が進化して意識も向上したときにたどりつけるような普遍的な美の形、ギリシャ美術由来の人間の理想形のようなものが込められていると感じます。仰ぎ見る宇宙の神像、心の指針のような一面もあると思います」

 最後に、読み解いておきたいのが、ポスタービジュアルなどに書かれている、

<そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。>

 という言葉だ。これは、初代ウルトラマンの最終回で、ゾフィーが光の国へ帰る前のウルトラマンに向け語ったセリフと同様のものである。

「特報映像で斎藤工さんが読んでいた本、『野生の思考』は、ザツに言えば、文明が発達したヨーロッパ人たちには、科学が発達する以前の未開の状態で生きる人々から学ぶべき部分もあるという内容のものです。外星人、ウルトラマンという高度な知性体の視点から見た人間は、未熟な存在である。その視点から、我々は好きになってもらえる資格があるのか、あるいは逆に外星人を好きになれるのか。そんなテーマが描かれた作品となるのではないでしょうか」(氷川さん)

 完成した作品には、さらなる驚きが込められていそうだが、キャッチコピーで示される、<空想と浪漫。そして、友情。>が満載の作品であることは間違いなさそうだ。

「映画館を出たときに、世界が少し変わって見えるような作品になることを期待しています」(同)

(本誌・太田サトル)

※週刊朝日  2022年5月6・13日合併号